026:港町スー


 ニコラ所長からリッツェルの現状を聞いた俺たちは、とりあえず翌日から動くことにして、その日は研究所の部屋に泊めてもらい、これからの旅程を立て直した。


 泊まれはしないだろうが、リッツェルの街まで行ってみるかとか、どっかで金を稼いで一晩くらい泊まるか、リッツェルは諦めて話のついでに王都に行って遊ぶか。

 正直、王都は物価が高いと聞いているので、遊ぼうにも金が足りないかもしれないが。

 金……お金は大事だよ……。


 そして王都を越えた先にある次の目的地の温泉街で冬越えをしようと思っているので、その準備に取っておく金も必要になる。

 冬越えの準備というのは、ざっくり言ってしまうと雪が積もって身動きが取れない間、引きこもるための準備だ。3人分なので結構な額になる。

 一応トレヴゼロを出る前に、現地に住んでいる知人に連絡は入れてるんだが、実際行ってみないとわからないのがまた……。


 そんなこんなで、結局リッツェルには寄らず王都に行くことにした。

 できればしばらく滞在して、王都でしか売ってないものや、クレッグの修行になりそうな場所に行きたい。予算の許す限り。

 方針も決まったし、俺の体調も大丈夫そうなので翌日に旅の準備をしてそのまま出発という流れになった。





「間に合ってよかった〜!」

「結構ギリギリだったもんな……」


 トレッサの近くにある港町から、王都側の対岸の港まで運んでくれる船に乗った俺たちは荷物を置いて一息つく。客が10人ほど乗ったらいっぱいになるくらいの大きさの船だ。

 陸路でぐるりと迂回するより最短距離を取れる船旅だが、内海というにはところどころはみ出した陸地が入り組んでいるので、小回りのきく小型の船が往復している。


 4人旅になった俺たちは、トレッサの街を出発して3日ほどかけて港町にたどり着いた。

 浮世離れした感のあるカルラに野宿旅とか大丈夫なのかな?と俺なんかはやや心配していたのだが、予想よりも手際良く薪をを刈り、水や食糧となる獣を捕まえてくる。

 なんだったら、俺たちよりも手際がいいくらいだ。しかもよく使われる薬草や食べられる野草、木の実などの類をよく知っていて、道すがら教えてもらってそっちに夢中になって到着が遅れそうになったのだ。

 まあ、1日くらいは誤差なので別によかったんだが、目の前に船が見えてしまうと急いでしまうものなのだ。


「この船で行くのか。ということは途中の島で一泊するのかの?」

「うん、」


 早朝に出て途中の半島で一泊して、翌日の昼過ぎに着く予定だ。

 トレッサの街の冒険者ギルドで宿の候補をいくつか聞いて来たので、そこに泊まろう。そうしよう。


「半島の宿に温泉ないかな……あったらそこにするのに」

「どうどうラッシュ」

「トレッサの街は結局あの黒い足湯だけだったもんな」


 温泉の有無まではわからなかったので、現地で直に聞くしかないのだが、トレッサの街の秘湯めぐりが中途半端に終わってしまった俺は少しでも希望に縋りたくて……目がギラギラしてしまっていたかもしれん。


「あそこの半島には温泉らしきものはなかったと思うぞ。海が近すぎて真水を引っ張ってくるのが大変だと言っておった気がするのう」

「へえ〜そうなの?普通に水汲んだら海水なのかな」

「そうらしい。へたに地面を掘っても海水混じりの水が出てくるんじゃと。半島の山にある湧水くらいしか水源がないと言うとったから、風呂のある宿は期待せん方がいいぞ」

「ぐ、ぐううううう」

「ラッシュ大丈夫か、変な声になってるぞ」


 予想よりも博識なカルラの言葉に撃沈する俺です。風呂入りたかったな……。


「一晩だし我慢するさ……王都側の港に着いたら地図を更新しに行こう……」

「それがよかろう。我も細かいところは覚えておらんでな。今どうなってるかはきちんと確認した方がいい」


 すごいまっとうで的確なアドバイスをくれる……カルラさん何者なんだ……。



◇◇◇



 王都側の港街スーに入ってくるのは、内海の狭い海峡を渡れる船だけなので港自体はこじんまりしている。

 それでも便数は結構あるらしく3人くらい乗ればいっぱいになりそうな小型の船から、俺たちが乗って来たくらいの中型の船がひっきりなしに出たり入ったりしているので賑やかだ。



「えーと、どうする?調べものもあるよね?今日このまま街に泊まる?」

「そうだな……ああ、俺は日持ちのする食料仕入れたい。次の街までどのくらいあるかわからんし」

「じゃあやはり泊まった方がよくないか?店回ってるだけで日が暮れるだろう」


 船を降りた先にあった広場の片隅で、幼馴染3人で相談しているのを、カルラは少し面白そうな顔で見守っている。

 基本的に俺たちの相談には口を出さないことにしているらしく、こちらから問いかければ答えてくれる。


 正直、思っていたより話しやすくて、いろんなことを知っているのでここに辿り着くまでの道中、あれもこれも聞いた。俺は基本的に自分の知らないことを知るのが好きなんだ。


「よし、宿取って一回休もう。そんで市場とか回ろう」

「りょーかい」

「おう」

「決まったか」

「うん。カルラも泊まりでいい?もしかしたら相部屋になっちゃうかもだけど」

「我は特に気にせん」


 いや、気にして!?男3人女1人ですよ!?

 とはいえ、これまで野宿続きで結局雑魚寝だったし、そういう雰囲気まったくなかったので(俺はちょっと怖くて警戒してたが)まあ、宿も相部屋でも大丈夫かもしれない……。




 そして早々に宿を決めた俺たちは、市場へ買い出しに来た。

 港町でいろんな物が入るのか、この時間でもわりと賑わっている。

 4人であちこち見て周り、消耗品や薬、干し肉や果物や木の実を干したものなど、旅に必要なものを買い足して行く。

 合間に美味しそうな食べ物を買い食いすることも忘れない。


「何これ美味い」

「こっちもうまい、なんだこの……ちょっと爽やか?なタレ……」


 イームルとクレッグの感想がひたすらうまいになっている。ちなみに俺もだ。


 俺が持ってるのは白身魚とパプリカっぽい野菜のフリッターに塩ダレっぽいソースがかかったやつだが、なんか後味がちょっと爽やかで油っぽいはずなのにサクサクいける。やばい。ちなみにクレッグも同じものを買っていた。

 イームルは薄切りの肉を甘辛い味で焼いて薄いパンに乗せてくるくると巻いたやつ。ときどき辛くて酸っぱいソースが入ってたりするけど、それが変化になって最後まで美味しいらしい。俺も買おうかな。こっちはカルラも買っていて、お気に召したらしく同じ店で別の肉のやつも買っていた。

 あっちで冷やした果物も売っている。口直しに買ってこようかな。甘いものが食べたい。



 そんなこんなで早めの夕食がてら大変満足のいく買い食いを終えた俺たちは、市場に行く途中で見つけた冒険者ギルドの支部に寄っていく。


 小さな支部だったので、資料室とかはなかったんだが、周辺の情報は受付の人が教えてくれた。


「はい、こちらが王都周辺からこの街まで記載されている地図です」

「ありがとうございます。狩場の情報とかってここで扱ってます?」

「はい、ここら辺では冒険者ギルドはこの街だけなのでありますよ。担当者呼びますね〜」

「おねがいします」


 感じのいい受付のおじさんが、奥から強面のガタイのいい人を呼び出して来てくれて、俺たちは無事にここら近辺の狩場の情報を手に入れた。強面の人、説明が上手だったし意外と細かいことに気づくタイプらしくて、細々教えてくれた。ありがたい。

 基本的には狩ってはいけない獣はうちの周りと変わらなさそう。一応ね、数が減ってたり、この時期子連れだったりする動物なんかだ。


 この辺はウサギが多いらしい。罠で狩れるかな〜。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る