019:ニコラ・シュニット研究所


 途中で見かけた研究所らしきものは、大通りよりも門と森に近い方にあって、結構な面積を誇っている。

 看板になんとか研究所って書いてあったからあれだろう。


「うーん立派だなあ」

「まあ、行ってみなきゃ始まらん。叩くぞ」 


 コンコン、とドアノッカーを叩く。

 分厚く重厚な装飾が施された研究所の扉は、これ中まで音聞こえてるんだろうか?というたたずまいだが、しばらくすると中から受付らしき女性が現れた。


「旅の方ですか?ここは冒険者ギルドではないですが……」

「あー、すみません、ここの所員さんでマルクルさんはいらっしゃいますか?薬草を買い取ってもらう約束をしてまして」

「ああ。それでしたら確認して参ります。そちらのベンチにかけてお待ちください」


 扉の中に招き入れられると、こじんまりとしているが天井が高いホールに通された。

 円形のホールの奥側に受付用の机と椅子があり、ホール内にいくつかベンチと応接セットが置いてある。

 俺たちは、3人並んで座れる大きさのベンチに並んで座った。


 俺たちが座ったのを確認して、受付の女性は受付の奥の扉を開けて、扉らしきものが並ぶ廊下に消えていった。


「静かだな……」

「ここ、部屋が防音すごいね。物音ほとんど聞こえないもん」

「植物の研究なのに防音がいるのか?」


 しばらくそこで雑談をしていたら、マルクルと数人の所員らしき人が一緒にやってきた。


 マルクルより少し歳上くらいの男性が頭を下げつつ、温和な笑顔でこちらに話しかけてくる。


「どうもこの度はマルクルがお世話になりまして……」

「保護者か」

「まあ、あまり間違ってない」

「本当にありがとう、こいつちょっと目を離すと薬草が足りないって外に行っちゃってて」


 他の所員は年下っぽく、最初の男性の挨拶に次々ツッコミが入る。愛されてるな、マルクル。

 当のマルクルは苦笑いしているが。


「で、とりあえず薬草どうする?マルクル」

「そうでしたね、うちで買取するので今出してもらってもいいです?」


 ベンチからホールの片隅にあった応接ソファセットに移動する。


 大きめのテーブルを3人掛けのソファが向かい合って挟み、さらにテーブルの短い辺を挟んで1人用のソファが向かい合って据えられているので、全員が座れるソファセットだ。


 各々座ったところで、ローテーブルの上に採取した薬草類を載せていく。


「なんだ?君たちも薬草採取してきたのか」

「ほうほう、専用の魔法鞄も持っているのか……状態もいいな。ぜひともまた採ってきてもらいたい」


 俺たちの採取した薬草類は合格ラインだったらしい。

 いつの間にかさっきの受付の女性がボードに薬草の種類と査定の値段を書き付けていて、その表を俺たちにも見せてくれた。


「大体このくらいの値段で取引させていただいてるのですが、よろしいでしょうか?」

「もちろんです、ありがとうございます……いいんですか?相場より高めですけど」


 今まで売ってきたギルドや商店の相場よりもだいぶ高い。

 思わず女性の顔を見ると、受付の女性もうなずいて、理由を教えてくれた。


「査定が高めなのは、珍しい種類が入っていたのと、採取と保存方法が適切で状態が良いためです。このレベルで採って来ていただけるとこちらとしても大変ありがたいのです」


 仕分けた薬草を紙で包み、メモを書き記していたマルクルもうなずく。


「そうなんですよ、このくらいの状態が最低レベルなんですけど、なかなか採ってきてもらえなくて」

「マルクル?冒険者ギルドとかに依頼もしてるんだからな?自分で採りに行くな、遭難するから」


 なるほど、それで自ら森の中に入って採取していたのか。

 理由に納得はしたが、他の所員さんのいう通り遭難する確率が高いので、大人しく採取人を別に育てた方がいいと思う……。


 森から出るまでの3日間でマルクルの性格をだいぶ味わった俺たちはそう思いつつ、査定メモの複写が終わるまで待っていた。


「君たち、もし差し迫った用事とかがなければ本当に依頼したいから受けてくれないかな?」

「次の街に行くまでの間でよければ受けますが、多分1ヶ月もいないと思いますよ?」


 仕分けを終えた所員さんの1人がそう言うのに、俺も無難に返す。

 実際、温泉が見つかってある程度金銭を稼いだら次の街に行く予定なので。


「それでもいいよ〜夏が終わると薬草もだんだん生えなくなるからね」

「一応冒険者ギルドにも依頼しているので、そっちで実績作りたいなら、ギルドの依頼を受けてもらっても構わないぞ?手数料の分、うちの査定よりちょっとだけ安くなってしまうが」


 おお、なるほどそういうのもあるのか……どうしようかな。

 冒険者ギルドは全国で横のつながりがあるので、実績を積むと信頼度が上がるので個別の割のいい依頼か増えたりするのだ。


「俺たちが何度かギルドで依頼を受けて、ノウハウ置いて行ったらいいんじゃないか?」


 クレッグが出した提案は、俺たちがいなくなっても採取ができるようにするためのものだ。

 あー、たしかに。そうしたほうがいいな。


「それはうちとしては大助かりだが、いいのか?」

「俺たちは通りすがりですしね。しばらくここで狩りとかして、冬用の資金貯めたら王都とその北の街に行こうと思ってるんですよ。その後は別ルートで故郷に戻るんで、こっち通らないから……」


 俺たちが採取できてる間はいいが、ここを出発して採取する冒険者がいなくなったら、マルクルの遭難率が上がってしまう。


「マルクルの危なっかしいの見てたらさー、早々に採取する人育てた方が良さそうだし」


 イームルの言葉に、マルクル以外の所員さんと俺たちは深くうなずいた。


「持ってくものとか用意するカバンとか採取方法とか、ギルド側か研究所側でまとめておけば、今後依頼を受けてくれる人も増えるだろうし。ここの研究所、すぐ撤退とかはないんでしょ?」


 ここの研究所が継続して薬草を必要としてるなら、定期的に依頼が発生するので、ここを拠点としてる冒険者なり住人が採取できるようにしたほうがいいだろうと思うんだ。


「そうだな、薬草を採取するノウハウか……そういうのまとめたことがなかったからなあ」

「そういうの込みで依頼出したら採取人も増えそうだな。頼めるか?」

「ええ、今からよければ準備するものとかまとめましょっか。薬草の取り方とか保存方法はそちらでまとめてもらって一緒にギルドに依頼を出してもらえれば」


 用意するものなんかをまとめた後は、査定した金額を受付の女性から受け取って、俺たちは研究所を出た。

 明日の朝には依頼を出してくれるそうなので、冒険者ギルドには明日行くことにしたし、今でも今日の宿を探しに行くかー。

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