014:情報収集



「さて。あらためて今日の予定を決めようか」


 昨晩すこーんと寝落ちしたので、宿の部屋で朝食を食べながら3人で作戦会議だ。


 もちろん金は節約しなければならないので、宿の部屋は3人で1室である。集まるまでもなく同じ部屋なので、起きたらそのままテーブルに移動して、昨日買ってきた食料を出していく。


 ここの宿は、部屋の半分くらいが高めの床になっていて、そこに布団を敷き詰めて寝る方式らしい。

 ベッドだと1人1台入れないといけないが、これならある程度人数も調整できるし、こういうのもありだな。


「冒険者ギルドにはもう一回行くよね?昨日見た依頼から変わってるかもしんないし」


 イームルは薄いパンにハムとチーズを挟んだものを、俺とクレッグは同じく薄いパンに魚のフライとここの名産らしいトマトという赤い野菜をはさんだものを食べている。

 かけてあるソースに酸味がきいてて美味しい。


 ついでにオレンジが安かったので、まとめて買っておやつや朝食にも食べる。ここのオレンジは果肉が赤かったり、酸味が強いのや甘いのや種類が豊富でつい色々買ってしまった。


「そうだな、依頼を見て半日くらいで行けそうなやつなら受けてもいいし、ラッシュは港に行きたいんだったか?」

「うん、正確には海底火山の温泉のことが知りたい。冒険者ギルドでなんかそういう情報見れるとこないかなとは思ってる」


 オレンジを半分の半分に切ってかぶりつく。これは甘いやつだった。美味しいな。


「資料室とか見せてくれるか聞いてみる?」

「そうだな、そうしよう」



 とりあえず今日までを休養日にして、明日から冒険者ギルドの依頼を受けて金を稼ごうということになった。

 昨日、調味料が思った倍の額で売れたので(お世話になったウノの宿屋の女将を心の中で拝んでおいた)懐はややあたたかいが、油断はできない。稼げるところは稼いでいかねば。



◇◇◇



 宿から出て、朝日が映えてひときわ白い街の建物に見惚れながら歩く。

 少し高台に宿があったので、入り組んだ坂道を降りながら、いろんな表情を見せる街並みを楽しんでいるうちに冒険者ギルドに着いた。


「おはようございます」

「おはようございます、おや昨日の……疲れは取れましたか?」


 昨日の愛想のいいお兄さんが今朝も受付にいた。

 軽く会釈して挨拶する。


 今日はどんな依頼があるのか確認してから、街の中を見て回る予定だ。つまり観光です。

 依頼自体は昨日寄った時にチラッと見てきたのだが、期間が短いやつは臨時で張り出されたりするから、まめにチェックしときたい。


「はい、そりゃもうぐっすり……。あの、資料室とかってあります?この辺の火山について調べたいんですが」

「火山ですか?資料室には多少あったと思いますが……なあサリア、火山周りの資料って資料室以外で見たことあるか?」


 サリアと呼ばれた掲示板の張り替えをしていた30歳くらいの明るい茶色の髪の女性がこちらを振り返る。

 依頼の用紙の古いものを剥がして束ねたものを持って、かつかつと靴音を鳴らしてこちらに歩いてきた。


「火山ねえ……資料室以外だと古本屋か図書館くらいしか見たことないかな。探してる内容にもよるんだけど……君たち火山の場所を知りたいの?性質を知りたいの?それとも周辺に生息してる動植物とか?」


 一気に聞かれてあわわわとなったが、俺が知りたいのは火山のそばにあるだろう温泉のことです。


「海底火山に温泉があるという話を聞いてですね、どこらへんか調べたくて」

「ああ、なるほどねえ。いわゆる秘湯のほうね?」

「あっ、それです。何か情報がないかなと」


 そうだなあ……とサリアさんは腕を組んで考え始めた。

 とんとん、と二の腕らへんを指で叩き、しばし考え込んでいたが、少しして閃いたらしくキラッと目を輝かせて教えてくれた。


「ちゃんとまとまった資料はここにはないのよ。噂話とかが多かった気がするし。その手の話はたしか港の管理をしてるスコッチの爺さんが詳しいから、聞いてみるといいよ」

「なるほど……。手土産とかあった方がいいです?」

「若いのにしっかりしてるのね。お酒ならなんでも好きだよ、あの人は」


 情報には対価がいるのは大体お約束なので……。


 受付の2人にお礼を言って、掲示板をもう一度見たが、今すぐできそうなものがなかったので一旦引き上げて港に行くことにした。



◇◇◇



「海底火山を見てみたい?」

「はい。秘湯の話を聞きまして、この街のどこかにあるならぜひ知りたくてですね」


 港の広場、海を存分に眺められる場所に背もたれがゆったりした長椅子を置いて、昼寝をしていたスコッチ爺さんは、俺たちの気配に目を覚まして起こすんじゃねえ!とプリプリ怒っていたが、手土産の酒を出すと機嫌を直して話をしてくれる姿勢になった。

 やっぱりこういうのは大事だな。話が早くなる。


「秘湯っていうかありゃあなあ……。海の中は流石に無理だが、船で温泉が湧いてるとこ観にいくツアーはあるぞ?」

「えっ。そんなのあるんですか!?」

「船!船に乗って行くの!?」


 無精髭をざりざりやりながら、スコッチ爺さんが話す新情報に沸き立つ俺たち。


 わりかしあっさり見つかったし、船に乗って行くですと……?

 ちょっとテンションあがっちゃうじゃん!


「午前に出るやつがあったんじゃねえか?時間とかはそこの管理所で聞いてみな」


 俺はこれを一杯やるんで忙しいからな、と言ってもう酒を開け始めたスコッチ爺さんにお礼を言いつつ、港の隅にある平屋のこじんまりとした管理所へぞろぞろと連れ立って歩いていった。




「海の温泉を見に行く船?ああ、あるよ。ていうか最近始めたばっかりなんだよね確か」


 管理所には事務員さんらしき人がいたので、あらためて聞いてみるとちゃんとあるらしい。よかった。


 棚に置いてあった書付帳をめくって、時刻を確認してくれている。


「週2の午前に1便ほど出てるんだけど、えーと、ちょうど今日か3日後だね」

「乗ります!!」

「待って値段聞いてラッシュ」

「こういうときの反応すげえ早いよなおまえ」


 だって!せっかくちょうどいい便があるんだぞ!!


「ははは、値段は往復で1人20ジルぽっきりだよ。うちは明朗会計なんだ」


 今泊まっている宿屋が一部屋50ジル。3人で一泊分か……。そこそこのお値段に俺が一瞬考え込んだのを2人が覗き込む。

 

 

 いやでもこれが目的で来たんだ、金の使い所はいまここだ!!!



「乗ります!!俺の奢りで!!3人で!!」



「えっ」

「えっ、ラッシュ大丈夫か?」


 突然の俺の叫びに2人がびっくりしている。でもいいのだ。


「これはそもそも俺が言い出しっぺなので……でもできれば3人で行きたいから俺の奢りで」


 2人を見ながら真面目に返すと、あ〜とか言いながら納得してくれた。

 ぶっちゃけ興味なくて留守番してるとか言い出す前に言わないと、まじで俺1人さみしく船に乗ることになるので……。

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