散歩の七百十八話 生きの良さそうなもの

「では、座学は以上となります。休憩後に、訓練場に移動して荷物講習と実技を行います」


 僕が座学の終了を告げると、あの態度の悪い獣人がようやくかよとダルそうに動き始めた。

 これは、前みたいに緊張で固くなっていた新人冒険者とは違いますね。

 しかし、残念ながらこの人にロックオンされてしまいました。


「ふふふ、生きの良さそうなものがいるな。軍でも勘違いをしたものの相手をしていた。あいつは任せてください」


 あーあ、シロたちよりも強いラストさんが不敵に微笑んでいます。

 面倒くさいものを相手してくれてありがとうと言うべきなのか、トラブルを起こさないでと祈るばかりなのか、微妙な気持ちです。

 スーはというと、顔見知りの新人冒険者に話しかけられていますね。

 すると、シロたちも元気よく部屋に入ってきた。


「シュンお兄ちゃん、終わったよー!」

「お疲れさん。無事にできたかな?」

「バッチリだったよ!」


 アオも問題無しとアピールしていたし、きっと大丈夫ですね。

 念の為に、シロたちと一緒にいたベイカーさんに話を聞いてみよう。


「元気よく説明していたので、新人冒険者のウケもとても良かったです。問題になるような新人冒険者もおりませんでしたので、概ね良かったかと」


 まあ、前回シロたちが説明した時もとても元気よくしていたもんなあ。

 ということは、問題のある新人冒険者はあの獣人一人ってことですね。

 すると、ベイカーさんも不敵にニヤリとしました。


「中々骨のありそうなものがいたのですね。なら、私もその次にお相手しましょう」


 あーあ、ベイカーさんが相手をすると言ったら、フランツさんとモルガンさんもやる気になってしまった。

 しかも、ラストさんがどんなものかを教えたら、余計にやる気が出てしまった。

 あの獣人、生きて帰れるのかとても心配になってきた。

 とはいえ、随行員たちもその辺は分かっているはずだから、きっと大丈夫だと思いたいです。

 ということで、全員で訓練場に向かいました。

 既に新人冒険者が集まっている中、あの獣人はというと……


「ぐごー、ぐごー」


 壁に寄り添って、気持ちよさそうにねていました。

 もちろん、獣人の周りには誰もいません。

 肝が据わっているのか、ただの馬鹿なのか。

 個人的には後者だと思いながら、荷物講習の準備を進めていました。


「ああ、あれですね。ふふ、楽しめそうですね」


 そして、遂にモルガンさんもやる気になっちゃいました。

 この時点で、肝が据わっていたり大物って線はなくなりましたね。

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