散歩の五百八十五話 座学開始

 打てるだけの手は打ったので、さっそく講座を始めましょう。

 今日は、スーがメイン講師を務めます。


「皆さん、本日の講師を務めるCランク冒険者のスーです。新人冒険者の皆さんに、冒険者の心構えなど大切な事を教えます。どうぞ宜しくお願いします」


 スーがペコリと頭を下げると、周りの人は拍手をしてくれます。

 偉そうにしていた冒険者は、うん、もう寝ているね。

 大人しくしてくれて、逆に助かるかも。


「副講師のシロだよ。シロもCランク冒険者なの。実技でみんなと手合わせするよ!」

「副講師のフランです! Dランク冒険者だよ。フランも、実技で手合わせするよ」

「同じく副講師のホルンです。えっと、Dランク冒険者です。スライムのアオちゃんはCランク冒険者なの」


 あっ、主にホルンの説明を聞いた初心者冒険者がざわめいていた。

 主に、腕に抱いていたアオの件です。

 アオはひょいっと冒険者カードを取り出して見せたので、またもやざわめきが起きました。

 うん、ここは僕が説明をしないと。


「先週、新人冒険者向け講習の講師をしたシュンです。アオは薬草採取の名人で、ハンターライセンスも複数持っています。北の辺境伯領で行われた武道大会のチャンピオンでもありますので、アオと戦ってみたい人は是非実技で手合わせをしてみてください」


 僕の説明に合わせてアオが触手をふりふりとしていたから、何人かはアオと対戦をしてみたいと思っているようです。

 では、さっそく座学を始めましょう。

 説明は、基本的にスーが行います。


「冒険者登録時に、皆さんに配られた冊子があります。こちらは必ず一読して下さい。冒険者にとっての心構えや基礎的な知識が記載されています。私も昨夜改めて冊子を読み直しましたが、とても大切な事が書かれています」


 スーは、昨日冊子を何回も見直していたっけ。

 基本的な事は全部冊子に書いてあるけど、失敗する冒険者は冊子を見ないで捨てるだろうな。


「冒険者は自己責任の世界と言われていますが、それはちがいます。立派な一つの職業です。どんな依頼でも、必ず相手がいます。自分勝手な行動をすれば、多くの人に迷惑をかけます。残念ながら私の元いたパーティは、他人に多大な迷惑をかけて強制労働刑になりました。迷惑をかけないことは、何よりの基本です」


 強制労働刑のくだりで、新人冒険者がざわめきました。

 スーは実体験として語っているから、説得力もあります。


「そして、自己研鑽を怠らない事です。剣を扱う人も、魔法を使う人もどの人も同じです。自分を守る力を着実に身に着けて下さい。特に野外での依頼は、何が起こるか分かりません。動物や魔物はもちろんの事、盗賊に遭遇する可能性もあります」


 スーも、訓練を重ねて今の力を手にした。

 今も訓練を怠らない。

 きっとスーの事を舐めている冒険者がいると思うけど、実力差はかなりあると思うぞ。

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