散歩の五百六十八話 保護された子ども達

 そしてスラム街に向かった聖騎士が戻ってきたけど、とても困惑した表情だ。

 腕にはタオルに包まれた何かがあるけど、あれってもしかして……


「王太子妃殿下、赤ん坊が遺棄されておりました。まだ、へその緒もついています」

「まあ、なんということでしょうか。生まれたてですわ」


 子どもはいるかなと思ったけど、生まれたての赤ん坊は完全に想定外だった。

 僕たちも、炊き出しや治療の手を休めて赤ちゃんのところに駆け寄ります。


「うわあ、まだ小さいね」

「尻尾が生えているよ」

「男の子だね」

「パパと同じのがついているよ」

「僕と一緒だね」


 保護された赤ん坊は、犬獣人の男の子て、栗毛っぽい髪色をしていた。

 シスターさんが素早くへその緒を処置してくれる間に、アオがヤギの乳を湯せんしてくれています。

 この前パンケーキの材料で、ヤギの乳を沢山買っておいて良かったよ。

 桶にお湯を入れて、赤ちゃんの体も洗っていきます。


「ねえ、この子はどうしたのかしら?」

「うんとね、朝になったらいたの」

「夜はいなかったよ」

「いつの間にかいたよ」


 アナ様が一緒に保護された三人の子どもに話を聞いているけど、どうも子ども達も知らない間に赤ちゃんが廃屋に置かれていたみたいです。

 因みに子ども達は三歳くらいで体が汚れていたので、生活魔法で綺麗にしてから教会内でお湯で体を拭いて着替える事になりました。

 その間にヤギの乳が温まったので、赤ちゃんに飲ませる事に。

 何とアナ様がマジックバッグから哺乳瓶みたいな物を取り出して、ヤギの乳を中に入れていた。

 どうやってヤギの乳を飲ませようかと思っていたので、とても助かります。


「うぐっうぐっ」

「わあ、いっぱい飲んでいるよ」

「お腹ペコペコだったんだね」


 そして、一児の母でもあるアナ様が、慣れた手つきで赤ちゃんにヤギの乳を飲ませていました。

 よほどお腹が空いていたのか、赤ちゃんは勢いよくヤギの乳を飲んでいます。

 シロ達の視線は、ヤギの乳を飲む赤ちゃんに釘付けです。


「こいつは運が良かったな。たまに赤ん坊の死骸が、スラム街に転がっている時もあるぞ」

「夜の仕事とか体を売って生計を立てるのもいるから、赤ん坊がいるのが邪魔なんだろうな」


 スラム街の住人も赤ちゃんを覗きながら事情を話しているけど、貧困が貧困を生む負の連鎖になっていますね。

 ある意味、スラム街を象徴する出来事に遭遇しています。


「教会の前にも赤ん坊が遺棄される事がありますが、殆ど助ける事ができません。この子は本当に奇跡的に助かったんですね」


 教会の司祭様も、赤ちゃんの頭を撫でながら事情を話していました。

 とにかく、スラム街の現状はかなり良くないと言えるでしょう。

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