散歩の五百八話 馬車内でのお互いの自己紹介
とても天気がいい中、僕たちを乗せた馬車は王都を出て街道を進んでいます。
流石に王都内は周囲を警戒していたけど、街道に出たので改めてアイさんから話を聞くことにしました。
でも、その前にアイさんからお話があります。
因みに、全員こたつに入っています。
「皆様、どうか私のことは呼び捨てでお願いします。主人が侍従に気安く話をすると、その主人の品格が問われます」
アヤさんとアイさんはスー付きの侍従だから、僕がスーを呼び捨てで呼んでいるのに侍従にさん付けは確かに良くないね。
それに、二人に気を使った話し方も良くないだろう。
「分かった、これからはアヤ、アイと呼ぶよ」
「「「「アヤお姉ちゃんとアイお姉ちゃんだよ」」」」
「シュン様は理解が早くてとても助かります。シロ様達は、まだこれからですね」
アイがニコリとして頷いたので、これで大丈夫です。
シロ達から、新しいお姉さんって感じが抜けるのはまだ先だろう。
「では、改めてアイと申します。姉共々、宜しくお願いいたします。シュン様はスーザン殿下の将来の旦那様と聞かされておりましたが、陛下と王妃様に堂々と話されている姿を見るに納得しております」
「あのね、シュンお兄ちゃんとスーお姉ちゃんはいつも新婚さんごっこしているんだよ。今日も、スーお姉ちゃんがシュンお兄ちゃんの服を直していたんだよ」
「お二人は既にその様なご関係なのですね。私もとても安心いたしました」
「あう……」
既にヴィクトリー男爵家の使用人も僕とスーの事はスルーしているし、陛下も王妃様もスルーしている。
だから、スーも顔を真っ赤にしなくても良い気がするけどね。
「しかし、朝から驚く事ばかりです。この馬車も見た目はただの幌馬車なのに、最新鋭の設備だとは。ここまで揺れない馬車は初めてです」
「西の辺境伯領で購入した最新鋭の馬車ですから。馬も特別な馬なのですが、更にパワーアップしました」
「ま、まさか馬が人の言葉を理解する以上の事があるのですか?」
馬車も凄いけど、馬も凄いからなあ。
そろそろ二人にうちの馬が魔法を使う事を教えないとと思ったら、ちょうど良いタイミングで御者席から声が上がった。
「あっ、前方からオオカミ……えっ、ええ! う、馬が魔法を?」
馬車が一旦停止したと思ったら、どうやら街道脇から現れたオオカミを馬が魔法を使って倒したらしい。
その様子をまともに見たアヤが、ビックリしたまま固まってしまった。
一旦全員馬車から降りて、改めて二人に馬の説明をします。
その隙に、アオが馬が倒したオオカミのところに行って血抜きとアイテムボックスへの収納をしています。
「この馬は、実は魔法が使えます。風魔法系の放出魔法も身体能力強化も、もちろん魔法障壁も扱えます。身体能力強化を使って魔法障壁を展開したまま突っ込めば、ゴブリンキングも容易に倒します。因みに馬の師匠は、オオカミの血抜きをしているスライムのアオです」
「「ブルル」」
「じ、常識が崩れていきます。馬が魔法を使って、師匠がスライムだとは……」
「じ、実は皆様はとんでもない戦力を保有しているのではないでしょうか……」
うん、アヤとアイは未だに目の前で起きている現実を受け入れる事ができない。
二人の頭の処理が追いついていないので、これでは御者をするのは無理だろう。
アオの紹介も兼ねて二人には馬車の中に乗ってもらい、暫く僕が御者をする事になりました。
僕の予想では、アオの凄さを知って二人はまた固まるのではないかと思っています。
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