散歩の四百三十話 謎の執事

 僕とアオが念の為に魔法障壁を展開してから、執務室の扉を開けました。

 というのも、執務室から魔力が集まっている気配がしたのです。


 ドン。


 僕達が扉を開けた瞬間、男の魔法使いが溜めていた魔力を一気に放ってきました。


 シュイン、ズドーン!

 バシーン。


「ぐっ、これを防ぐとは」


 バリバリバリ!


「グハァ!」


 バタリ。


 男の魔法使いが自身が放った魔法が簡単に防がれて狼狽した瞬間を狙って、今度は僕が声もなく電撃を放ちます。

 まともに電撃を浴びた魔法使いは、そのまま苦悶の表情を浮かべて倒れました。


「ブローカー侯爵、いきなりのご挨拶だな」

「ふん、貴様こそ金魚の糞みたくゾロゾロと人を連れて来やがって」


 軍務大臣が脳天がはげている豪華な服を着たかなり太った人と話をしていたけど、間違いなくその人が例のブローカー侯爵で間違いないね。

 こっそりと鑑定したけど、鑑定結果も間違いなかった。

 ブローカー侯爵の周囲を囲む様に、十人の武装した人物が短刀を手にしていました。


「軍務大臣、あの人を鑑定したらレッドスコーピオンと人神教の幹部とも出ていますね」

「ああ、その情報も掴んでいる。あんなのが大臣だというのが、本当に恥ずかしいくらいだ」


 軍務大臣と騎士団長に加えて、トーリー様も剣を抜いて構えました。

 でも、僕達はブローカー侯爵と武装した集団よりももう一人の人物に意識を向けていました。

 ビシッと執事服を着て髪を整えている若い男性だけど、この中にいる人と比較しても遥かに強い気がする。

 という事で、僕とアオで一気に仕掛ける事にします。


 シュイン、シュイン。

 バリバリバリ!


「「「ギャー!」」」


 この部屋にいる全ての相手に対し、強力なエリアスタンを放ちます。

 魔法使いの数人が何とかレジストしたけど、あの執事は余裕の表情を浮かべていました。


「ふっ」


 ガキン!


「おやおや、騎士団長様とも有られる方が一執事に真剣で切りかかるとは」

「ふん、貴様こそ余裕で私の剣を受け止めているではないか」


 バルガス様の剣を、執事が短刀で軽々と受け止めていました。

 明らかに周りにいた闇組織の構成員とレベルが違うし、何よりも騎士団長でもあるバルガス様と対等にやりあっていた。


「とー!」

「せい!」

「「「ぐはあ」」」


 因みに何とかエリアスタンをレジストした魔法使いは、シロとトーリー様によって簡単に倒されていた。

 そう思うと、やはり執事のレベルは飛びぬけていた。


 ガキン!


「ふう、ここまでの様ですね。ここは一旦引かせて貰います」

「貴様、何をするつもりだ!」


 そして全ての闇組織の構成員が倒された所で、執事が無理矢理バルガス様から距離を取った。

 執事は胸元から何かの魔導具を取り出して操作すると、床に魔法陣が現れました。


「皆様とは、またお会いしましょう。それでは」

「くそ、待つのだ!」


 ギン、ギン、ギン!


 バルガス様が執事の周囲に現れた魔法陣に斬りかかったけど、全くびくともしなかった。

 そして執事が恭しく礼をすると魔法陣が一段と眩しいほど光り輝き、光の奔流が止むと執事の姿は綺麗さっぱりなくなっていた。


「くそ、逃げられたか」

「探索魔法を使っても、全く感知できません」


 軍務大臣が、とても悔しそうに執事のいた方向を見ていた。

 一つ言える事は、あの執事がブローカー侯爵の件に絡んでいるのは間違いないという事だった。

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