散歩の四百十三話 スーの秘密

「先ずは、スーの事について話すか。スーはヴィクトリー男爵家の血を引いていて、ヴィクトリー男爵家令嬢であるのは間違いない」

「はい。ただ、スーの母親は既に亡くなっていて、父親も誰か分からないと聞きました」

「うむ、その認識は間違いない。だからこそ、スーの存在は貴族社会において微妙な存在じゃった」


 父親が誰か分からない未婚の母親から生まれたとなると、スーはいわば貴族社会の中では問題視されるのは必須だ。

 だからこそ、南の辺境伯領で最初にスーと会った際に、あの伯爵家の三男から侍女みたいな扱いをされていたよなあ。

 でも、王妃様が義母って言ったという事は……


「王妃様、もしかしてスーの父親は分かっていて秘匿されなければならない存在だったのでは?」

「ふふ、流石はシュンだのう。あのエミリアが、シュンの事を出来る人間だと褒めておったわ」


 僕の予想があたったみたいだけど、僕としてはエミリア様が王妃様にどんな内容を伝えたのかが気になります。

 だって、王妃様がとても良い笑みで僕の事を見ているんですから。


「なんて事はない。スーの母親であるマーシャと、陛下が一夜の過ちをおかしただけじゃ」

「いやいや、それって凄い事だと思いますが……」


 王妃様が問題なさそうに話をしたけど、物凄く大問題な気がするよ。

 一方のスーはと言うと、余りにもざっくばらんに話をする王妃様を見てハラハラしていました。


「マーシャは容姿端麗でとても聡明な、まさに貴族令嬢を体現した様な女性じゃった。妾から見ても、魅力的な存在じゃった。そして、マーシャは王太子である息子の家庭教師をしていたのじゃ」


 うん、何となくこの後の展開が読めてきたぞ。

 スーは王妃様が自分の事をどんどんと話すので、アワアワし始めました。


「まあ、よりによって妾も現行犯で現場を見てしまってな。流石の妾も怒ってしまってのう、素っ裸の陛下をボコボコにして正座させて説教してしまったぞ」

「うわあ、まさかの浮気現場を見てしまうとは」

「マーシャに欲情した感情をコントロール出来なかった陛下が、この場合は全面的に悪い。流石にマーシャには家庭教師を辞めて貰ったが、流石に代わりの補償はしたぞ」


 この国で一番偉い人に迫られたら、そりゃ断るのは難しいですよね。

 そして、怒れる王妃様の心中をお察しします。


「それで、スーが生まれて暫くしてスーの母親が病気で亡くなったって事なんですね」

「そういう事じゃ。陛下も流石に悔いてのう、男爵との面会を理由にスーと良く会っておった。スーは何も悪くないのでな、妾も実の娘の様に接しておったのじゃ」


 王妃様は、落ち着きを取り戻す様に少し冷めた紅茶を飲んでいた。

 まさか、スーにこんな秘密があったとはなあ。

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