散歩の三百八十一話 二人が辺境伯家へ嫁に行く理由

 いきなりの事で訳が分からないので、先ずはエミリア様からの話を聞く事にしよう。


「元々今回の人神教の騒ぎが始まる前から、二人は辺境伯家にどうかなと思っていたのよ。仕事もキッチリとやるし、何よりも書類整理の時に辺境伯様に対してもしっかりと物申したのは好印象だったわ」


 あの辺境伯様が溜めまくっていた書類整理は、途中から全員が辺境伯様に対して怒っていた気がするぞ。

 とはいえ、辺境伯様に怒れるのは凄い事だと思うよ。

 ただ、辺境伯家にはもっと怖い人がいるけどね。


「あと、言い方が良くないけど、人神教との件もあるのよ。娘を辺境伯家に差し出す形になるから、他の貴族も処分に口を出せないのよ」


 辺境伯家として爵位の降格を求めない事もあるから、他の貴族に何かを言われる可能性もある。

 そういう意味でも、二人が辺境伯家に嫁ぐ事は確かに意味がありそうだ。


「ケーシー、あなたは何も悪くないのに我が家の事で本当に迷惑をかけるわ」

「できれば自由にさせてあげたかったのだけど、これも貴族家に生まれた宿命ね」


 ケーシーさんとテルマさんの母親は、娘に頭を下げていた。

 心の中では思う所もあるのだろうけど、ぐっと堪えている表情だった。


「お母様、色々と私の事を思って頂きありがとうございます」

「結婚できないかもと思っておりましたので、良い事だと思っております」

「ケーシー……」

「テルマ……」


 一方のケーシーさんとテルマさんは、この婚姻を前向きにとらえていた。

 そんな娘の凛とした姿に、母親は思わず涙ぐんでいた。


「ケンちゃんは、ケーシーとテルマは好きよね?」

「うん! ケーシーおねーちゃんもテルマおねーちゃんもだいすき!」


 ケントちゃんは、エミリア様の質問に元気よく答えていました。

 次代の辺境伯様に気に入られているのも、きっと大きな判断の材料になったのだろうね。


「さあ、話は纏まったし食事にしよう。小さい子がうずうずしているぞ」


 先代様が苦笑しながら、まだかなーって顔をしているシロ達とケントちゃんを見ていました。

 話は、このくらいで終わりだね。


「ああ、最後に一つだけ。ケーシーとテルマは、母親と軍と共に帰るわ。シュンとスーは、もう少しだけ辺境伯領に残ってね」


 エミリア様の方針に、僕達も頷きました。

 きっとケーシーさんとテルマさんも、母親と一緒にいたいよね。


「「「「おいしー!」」」」


 エミリア様の話が終わったら、早速シロ達とケントちゃんがお肉を食べ始めました。

 少なくとも暫くは軍は留まるし、いきなり明日別れるという事ではないもんね。

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