散歩の三百七十九話 街の人のケーシーさんとテルマさんの評価
十分もすると、エミリア様と親子二組が馬車から降りてきた。
おや?
親子が、何だか戸惑った表情をしているよ?
「エミリア様……」
「流石はシュンです、直ぐに気づいたわね。夕食時に色々と話してあげるわ」
エミリア様に親子が何故困惑しているのかを聞こうと思ったら、エミリア様も僕の疑問に先手を打ってきた。
こうなると、下手に聞いても教えて貰えないな。
「それよりも、あなたは何故シュンの側にいるのですか? 昼食があるからと、ここでの飲食はやめて下さいと申したはずですよね?」
「な、ななな、何の事かな?」
「ふーーーん?」
あーあ、やっぱりというか辺境伯様のつまみ食いは禁止されていたんだ。
エミリア様としては話の話題を別に振りたかったのだろうが、辺境伯様の不審な態度に完全に気が向いてしまった。
「あなた、口元に汁が付いていますわよ?」
「おお、失礼。あっ!」
辺境伯様、何でそんなベタベタな引掛けに引っかかるのですか?
この場にいた全員が、やっちまったと思った瞬間だった。
「フランちゃん、ホルンちゃん。辺境伯様は賄いを食べていたの?」
「うん、しかもシュンの昼食を食べたんだよ!」
「シュンお兄ちゃん、アイテムボックスから別のご飯を出していたの」
「ふーーーーーん。二人ともありがとうね」
一番素直に答えそうなフランとホルンからの証言を得たエミリア様は、顔が真っ青な辺境伯様を真顔で見つめました。
くい。
「あなた、お話しましょうね」
「……はい」
エミリア様は、真顔で顎でくいと馬車を示していた。
選択肢の無い辺境伯様は、素直にエミリア様の後をついて行った。
全員が一言も発せずに、二人が馬車に乗り込むのを見守っていた。
トントントン、バタン。
「皆様にも、我が家の者が大変ご迷惑をおかけしました」
「改めて謝罪いたします」
そして馬車のドアが閉まる音がしてから、ケーシーさんとテルマさんの母親は棟梁と解体の責任者に謝罪していた。
「おお、ケーシーとテルマのかーちゃんか。二人は、収穫祭の頃から良くやっているぞ。本当に働き者だ」
「首謀者が全て喋ったから、俺達も大体の事は分かっている。街の人も、全然気にしていないぞ」
棟梁も責任者も、ケーシーさんとテルマの事も含めてナンシー子爵家とフランツ子爵家の事は一切悪く言っていなかった。
辺境伯領の街の人が、ケーシーさんとテルマさんの事を認めているって証拠だね。
ドタン、バタン、ドタン、バタン。
「あーーー! あーーー! あーーーーー!」
因みに馬車が大きく揺れて誰かの叫び声が聞こえてきたが、現場にいた誰もが気にする事はなかった。
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