散歩の三百六十話 ブーケトスという名の争奪戦
「それでは、改めてここにいる新郎新婦の結婚を神に報告する。指輪の交換をし、誓いの口づけを」
「「「うおー!」」」
ここで一気に司祭様が畳み掛ける様に進めたので、あっという間に合同結婚式は終わりました。
広場に集まった人からも、割れんばかりの拍手が起きています。
「お母様、良かった……」
「うおーん、うおーん」
トリアさんは先代様に寄り添う母の姿に感涙していて、辺境伯様は再び号泣していました。
スーもシロ達も、大きな拍手をしています。
「それでは、パレードの準備を進めつつ、お待ちかねのブーケトスです。今回は、幾つもの困難を乗り越えたありがたいブーケですよ」
「「「私が取るわー!」」」
あっ、これはヤバい。
広場に未婚の女性が、殺気を放ちながら多数押し寄せました。
広場が爆発してセットが壊れたり、合同結婚式の最中に割り込みがあっても無事に終えたから、確かに今回のブーケはとてもご利益がありそうだ。
しかもマリアさんの懐妊発表もあってか、子宝の効果もありそうです。
「スー、トリアさん。このブーケトスって、絶対に怪我人が出そうですよね?」
「ちょっとここでも殺気で滅茶苦茶怖いですし、何かありそうですね……」
「昨年のブーケトスよりも、明らかに放たれている気迫が違います」
「「「怖いよー」」」
シロ達とアオは本能で怖がっているし、スーとトリアさんの顔も引きつっています。
そんな僕達の不安を他所に、どんどんと進行していってます。
「六つのブーケをゲットする幸運な女性は、一体どなたでしょうか? それではどうぞ!」
「「「えーい」」」
遂に六つのブーケが、司会のアナウンスで猛者たちの中に投げられました。
そして、予想通りの展開が待っていました。
「あたしが取るのよ」
「いいや、あたしのものよ」
「ちょっと、何勝手に動いているのよ」
「いたっ、押さないでよ」
「これは私のものよ」
押し合い揉み合いは勿論の事、怒鳴り合いに手が出ている人までいます。
このブーケトスは、ちょっと激しいってレベルじゃないぞ。
「「「うわあ……」」」
「「「ガクガクブルブル」」」
僕とスーとトリアさんは広場で繰り広げられる惨劇にドン引きで、シロ達に加えてアオも僕達の影に隠れて震えています。
「え、エミリア様、これって不味くないですか?」
「どうせ直ぐに落ち着くわ。恒例行事だし、誰も止められないわ。治療の手配もしてあるから大丈夫よ」
エミリア様が平然としているから、僕達もこれ以上は何も言えません。
「取ったわ!」
「「「パチパチパチ」」」
そして、数分後にボロボロになったブーケをゲットし高々とアピールしている女性を称えて、壮絶なブーケトスは終了しました。
もうね、女性のお化粧も服もボロボロで、激戦の戦地から帰ってきた戦士のような神々しさがあります。
正直な所、遠くからブーケトスを見ていた男性陣はドン引きしていますが、獣人が多い辺境伯領ではこれだけ強い女性が主導権を握るのかもしれませんね。
辺境伯家を見れば、特に良く分かります。
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