散歩の三百五十八話 怒れる母親の一撃

「くそ、何だよ。王都一の美人で格闘の名手は、この私でなければならないんだ!」


 シュイーン、ドンドンドン!


「ふっ」


 バシン、ドドドーン。


「「「すげー、これはすげーぞ!」」」


 焦ったヘラが魔法を乱発するけど、その全てをエミリア様は殴り飛ばしました。

 観客にとっても良い見世物になっているので、かなりのテンションになっています。


「はあはあ、はあはあ。ぐっ、くそ!」


 遂にヘラは、肩で息をするまで体力を消耗しました。

 ヘラはギラリとエミリア様を睨みつけるけど、その表情は全く余裕がありません。


「どうした、もう終わりか? では、そろそろこちらもいくぞ」

「ぐっ……くそ!」


 専守防衛に徹していたエミリア様が、構えを取りました。

 じりっ、じりっと、エミリア様はヘラとの距離を詰めて行きます。

 ヘラは、さながら蛇に睨まれたカエル状態です。

 そんな時、ヘラが舞台に向けて火の玉を放ちました。

 もしかして、狙いはケントちゃん?


「ふん!」


 ドーン。


「この様な魔力が練られていない魔法なぞ、避ける必要すらない!」

「「「うおー!」」」

「おとーさま、かっこいー」


 ケントちゃんの前に辺境伯様が立ちはだかって、何と火の玉を体で受け止めてしまいました。

 しかも、服も無傷です。

 一体どうなっているんだ?


「ケンちゃんに何をした!」


 だっ、しゅっ。

 ドン、ボキボキ!


「ぐっはあ!」


 刹那エミリア様が一気にヘラに近づき、ショートフックをヘラの脇腹に突き刺しました。

 ヘラから複数の骨が折れる音が聞こえて、ヘラは苦悶の表情に変わります。

 怒れる母親の一撃は、とっても重いですね。


 しゅっ、ズボ!


「ぐおえー!」


 そして更にエミリア様は、ボディブローをヘラのみぞおちに突き刺します。

 エミリア様の一撃は、ヘラの体がくの字に折れ曲がり体が浮くほどの強烈なものです。


「ぐお、おぅぇぇぇえ!」


 ヘラは地面に転がりながらも、嘔吐が止まりません。

 しかし、エミリア様は更に容赦ない攻撃を続けます。

 うつ伏せに転がっているヘラの背後から左腕を取り、一気に決めました。


 バキン!


「ギャァァァァァ!」


 ヘラの叫び声が広場に響き渡るけど、エミリア様は表情を変えません。

 流石に会場の空気も静まり返りシロ達も怯え始めたので、僕はエミリア様の側に走って行きました。


「え、エミリア様、流石にやり過ぎじゃ……」

「肩の関節を外しただけよ。折ってはないわ」


 いや、あの、エミリア様は何でもない様に言うけど、関節を無理やり外しても激痛だと思うのですが。


「それよりもシュン、ヘラが使っていた剣を貸して頂戴」

「あっ、はい。どうぞ」


 ヘラの使っていた剣で何をするのかなと思ったら、エミリア様は剣先をヘラの足にチクリと刺しました。


「くご、うがががが!」

「なっ!」

「やはり、この剣は魔導具ね。魔力を通すと、猛毒が発生するみたいね」


 ヘラは顔が真っ青になり全身が痙攣しています。

 口から泡を吹いて、ひと目見てヤバい状態です。

 でも、これってヘラが辺境伯家の人々を毒殺しようとしたのでは?


「シュン、ヘラに回復魔法をかけてやって。大事な証人だから死んだら困るわ」

「イエッサー、マム!」


 僕はエミリア様に敬礼してから、全身の穴という穴から何かの液体を垂れ流しているヘラに回復魔法をかけます。

 うん、敵とはいえ女性なのだから、生活魔法で体を綺麗にしてあげないと。

 衆人の目に晒されているけど、流石にこれはね……

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