散歩の三百五十話 お掃除大作戦
「みんなで、おそーじするよー!」
「うん、なんだ?」
「ありゃ、若様じゃないか?」
「掃除って、何の事だ?」
突然舞台上でケントちゃんが大声で叫んだので、広場に集まった人が一斉にケントちゃんの方を向きました。
実は、これも作戦の一つです。
辺境伯様よりも、ケントちゃんの方が注目を集めるだろうと思ったのです。
人々の注目が集まった所で、拡声器型の魔道具を持ったエミリア様が話し始めました。
「本日は踊りなどを楽しんだ後に合同結婚式になるのですが、如何せんゴミが多すぎます。なので、開始時間前まで皆さんでゴミ拾いをやろうと思います」
「確かにゴミは多いな」
「今年は皆はっちゃけたからな」
「はっちゃけたのは、お前じゃないか?」
「何だと!」
「「「ははは」」」
勝手に街の人がコントみたいに話をしているけど、取り敢えず目的は分かってくれました。
ゴミがそこら中に散らかっているので、街の人に協力してもらおうと言うわけです。
ついでに、怪しい物も回収しちゃいます。
「ただゴミ拾いをするだけでは面白くないので、参加者には電撃の料理人が作るまんまる焼きの無料引換券を渡そうと思います」
「「「うおー!」」」
ちょっと、エミリア様何を言っているんですか!
流石にそれは、主に僕が無理する事になりますよ。
僕が抗議の視線をエミリア様に向けても、エミリア様は華麗にスルーするだけでした。
街の人も、エミリア様の話を聞いてかなりやる気になっています。
「それでは、スタート!」
「すたーと!」
「ちょっとー! マジですかー!」
僕の叫びも虚しくそのままゴミ拾いが開始されたので、僕もひたすらまんまる焼きを作っていきます。
この穴がある鉄板は一つしかないので、僕が頑張るしかありません。
今の内に出来るだけまんまる焼きを作らないと、後が大変な事になります。
「こう見ると、本当にゴミだらけだな」
「全くだ。あのあんちゃんの料理人が旨いから、沢山買っちまうんだな」
「ああ、分かるぞ。食堂のおばちゃんが真似ていたけど、やはり味が違うよな」
あの、街の人もゴミが出ているのは僕のせいにしないで下さいよ。
僕はガクリとしながらそんな事を思っていたら、仕掛けていたトラップが発動しました。
「おい、ゴミを持ったまま何処に行くつもりだ?」
「こっちにもいたぞ」
「ぐっ」
「くそ、何故わかった?」
手にゴミを持った人族が広場から逃げようとしたので、周囲を監視していた警備兵に捕縛されました。
直ぐにアオが不審者の所に行って、何かをしています。
そのまま二人の不審者は、守備兵に拘束されてエミリア様の所にやってきました。
「エミリア様、不審者が爆発型の魔導具をゴミに見せかけて持っていました。チャンピオンスライムによって、既に魔石は取り外されています」
実は皆が一斉に動けば、一時的に設置した爆発型の魔導具を誰かが持ち去ろうとするのではないかと思ったのです。
敵が木を隠すなら森作戦をしてきたので、森ごと無くしてしまえってのが僕達の作戦です。
守備兵も以前仲間が闇組織と人神教の連中に襲われていたというのもあってか、とても気合が入っていました。
「ご苦労でした。引き続き警備を続けて下さい。うふふ、さてどんな事を喋ってくれるかしら?」
「ふむ、儂も付き合おう。ちょうど二人いる事だし。たっぷりと話をしたいものだな」
「「あわわわわ……」」
そして捕縛された不審者は、エミリア様と先代様によって舞台裏に引きずられて行きました。
正直な所、さっさと情報を吐いた方が自身の身の為ですよ。
「はーい、どーぞ」
「若様、ありがとうな」
そして、まんまる焼きの引換券は、ケントちゃんが書いたまんまる焼きが描かれている物でした。
これなら、引換券を偽装する心配はないですね。
ケントちゃんの側にはマリアさんが付いているし、万が一の時にも対応できています。
「おっ、これも爆発型の魔導具だな。アオ、魔石を取り外してくれ。しかし、こんなに大量の魔導具を仕掛けて何がやりたいんだか」
そして回収されたゴミを確認すると、ゴミの中に三つも爆発型の魔導具が紛れていました。
辺境伯様も思わず呆れているけど、アオが見つけた一つと不審者が持ち去ろうとした二つと併せて六つもの爆発型の魔導具が仕掛けられていた事になります。
闇組織と人神教が、結婚式を台無しにする気満々だった何よりの証拠ですね。
「くそー、焼いても焼いても終わらないぞー!」
僕はというと、ひたすらまんまる焼きを作っていてそれどころではありませんでした。
僕が今回の作戦の考案者なのだから、辺境伯家の皆さんももう少し僕を労ってくれても良いと思うな。
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