散歩の三百四十六話 酔っ払いが部屋に侵入

 翌朝、僕は何故かフランに抱きつかれた状態で目が覚めました。

 えーっと、確かフランとホルンはケーシーさんの部屋に行っていて、シロとアオはテルマさんの部屋にいたはず。

 しかも、フランは僕にぎゅっと抱きついています。

 フランも目を覚ましているみたいなので、何があったかを聞いてみよう。


「シュン、部屋に酔っ払ったスーが入ってきたよ……」

「えっ? スーは、ケーシーさんの部屋の鍵をどうやって開けたんだ?」


 僕はシロ達が部屋に入ってくる可能性があるから鍵をかけてなかったけど、ケーシーさんとテルマさんの部屋は常に寝る時は鍵をかけていたはずです。


「何か、解錠って魔法を使っていたよ。それで、ケーシーはホルンと一緒にテルマの部屋に逃げたんだ。フランはシュンの部屋に来たんだ」

「そ、そっか、それは怖かったな。よしよし」


 うん、部屋の鍵が突然開いて、酔っ払いが部屋に入ってくるのはとても怖いぞ。

 しかも、解錠の魔法って無属性魔法でもかなり難しいやつじゃないかな?

 勿論、僕はできないし。

 僕はまだ抱きついているフランの頭を撫でつつ、惨状を見に行く事にしました。


「うわあ、確かに酔っ払いだね」

「うん……」


 ケーシーさんの部屋のドアは開いていて、廊下から部屋の中が丸見えでした。

 そして、スーが床に転がって気持ちよさそうに寝ていました。

 こりゃ、他の人にスーの姿を見せる訳にはいかないな。

 でも、勝手にケーシーさんの部屋に入る訳には行かないので、僕はフランを抱っこしたまま皆が避難をしているテルマさんの部屋に移動しました。


 こんこん。


「朝早くにすみません、シュンです」

「あっ、はい。今開けますね」


 カチャ。


 テルマさんがドアを開けてくれたけど、部屋のベッドはぎゅうぎゅう詰めでした。


「あの、その、スーが色々してすみませんでした……」

「大丈夫ですよ。その、前にもありましたし……」


 テルマさん曰く、例の誕生パーティーの時に屋敷に泊まっていたケーシーさんとテルマさんさんの部屋に、酔っ払ったスーが入ってきたらしいです。

 だから、今回も冷静に対応したそうです。


「ケーシーさん、部屋に入ってスーを起こしても良いですか?」

「宜しくお願いします。私達も向かいます」


 ケーシーさんの許可も得たので、僕達はケーシーさんの部屋に移動します。


「ふすー、ふすー」


 スーは、相変わらず良く分からない寝息をたてていました。

 アオがスーを触手でちょんちょん突いても起きないし取り敢えずお酒臭いから、先にスーを生活魔法で綺麗にしてから回復魔法をかけます。


 ぴかー。


「う、ううん? あれ? ここは?」


 僕が回復魔法をかけると、スーはもそっと起き上がりました。

 そして部屋の中を見回すと、急に頭が覚醒したみたいです。


「あれ? ここは、もしかしてケーシーの部屋ですか?」

「もしかしなくても、ここはケーシーさんの部屋だよ」


 治療をした僕とドア付近にいる人だかりを見て、スーはしまったという表情に変わりました。


「大変申し訳ございませんでした……」


 そして、スーは直ぐに僕達に向かって綺麗な土下座をしました。

 スーよ。

 お酒を飲んだ翌日に土下座をするって、この一年で二回目じゃないかな?


「まあ、お酒を飲ませた僕達も悪いという事で、被害も少なかったしこのくらいにして起きましょう」

「はい……」


 こうして、この場は何とかおさまりました。

 しかし、実は屋敷の中ではもう一人酔っ払いがやらかしていました。


「ぐおー、ぐおー」


 辺境伯様が、何故か玄関ホールで爆睡していました。

 しかも、怪獣の様な寝息です。


「この人は、酔っ払うといつの間にかどこかで寝ちゃうんですよね」

「つんつん、つんつん」


 辺境伯様の側には、もう慣れっこって感じのエミリア様と辺境伯様のほっぺたをつんつんしているケントちゃんの姿がありました。

 そして、エミリア様はこちらに向き直ってニッコリと一言。


「シュン、これからはスーもお酒を飲んだら寝る前に回復魔法をかけてあげた方が良さそうね」

「あうう……」


 どうもエミリア様は、今朝のスーの事も把握していたみたいですね。

 スーは顔を真っ赤にして、思わず縮こまっちゃいました。

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