散歩の三百十三話 僕達が収穫祭でやる事
屋敷を出発した僕達は、広場まで皆で歩いて向かっています。
「わーい、おねーちゃんといっしょ!」
「そうね、私もケント様と一緒は嬉しいわよ」
ケントちゃんは、トリアさんとニコニコしながら手を繋いでいます。
トリアさんはというと、辺境伯家の血を継ぎながらもあくまでも侍従という立場を崩していません。
きっと、お母さんであるマリアさんの影響が大きいんですね。
「しかし、トリアも笑顔になったわ。マリアさんが元気になったのもあるわね」
「うむ、マリアは胸の病気で長く療養していたからな。トリアもホッとしたのだろう」
話を聞くと、どうもマリアさんは一年程胸の病気で療養していたそうです。
先代様もとても心配していたそうで、時折様子を見に行っていた様です。
「おお、先代様じゃねえか。今日は娘と孫と一緒かい?」
「お母さんに似て、綺麗な娘さんだね。あの、ヤンチャな息子とは大違いだ」
「はは、そこはエミリア様がしっかりと手綱を握っているさ」
「ちげえねえ。エミリア様がいれば、辺境伯家は安泰だ」
しかし、街の人もマリアさんとトリアさんの事情を知っているのか。
街の人からかけられる話の内容が結構とんでもないけど、本人達は特に気にしていないので僕もスー達も何も言いません。
そして、何事もなく広場に到着しました。
「わあ、武道大会くらい広いね」
「舞台もあるよ」
「何かやるのかな?」
広場には多くの人が工事を行なっていて、武道大会と同じく沢山の観客席が作られていました。
そんな中、現場の責任者が先代様とエミリア様の所に近づいてきました。
「おお、ご苦労さん。進捗はどうだ?」
「滞りなく進んでおります。これから、仮祭壇の準備を行います」
「今年は豊作でしたので、いつも以上に神にお礼をしないといけないわね」
一週間もすれば収穫祭だけど、準備は順調なんですね。
仮祭壇というと、収穫を神に報告するのかな?
「シュン達は知らないと思うけど、収穫祭の時に結婚式が行われるのよ。収穫に併せて恋が実るって事でね。一種の縁起物ね」
「へえ、とっても素敵ですね」
収穫祭で結婚式が行われるとは、中々面白いですね。
スー達も年頃の女の子だけあって、目をとても輝かせています。
一般の人も多く訪れて、皆で新郎新婦をお祝いするそうです。
街の人も楽しみにしていそうですね。
「スー達とシロちゃん達には、収穫祭当日は結婚式の裏方を頼みたいの。将来の自分の結婚式の良い練習になるわよ」
「「「是非やらせて下さい!」
「「「頑張るぞ!」」」
確か前世でも結婚式関連は女性がやる事が多かったし、スー達もシロ達も気合十分でエミリア様の依頼を受けました。
女性にとって、結婚は憧れだもんね。
あれ?
僕は一体何をすれば良いのだろうか?
「シュンは、辺境伯家の屋台を手伝って貰う。トリアもシュンをサポートさせる予定だ。シュンは各地で屋台をやっているし、何よりも電撃の料理人の二つ名持ちだからな」
「はっ?」
「シュン様、一生懸命にお手伝いいたします」
「ははは。シュンよ、期待しているぞ」
「へっ?」
あの、エミリア様……僕は料理以外の事をやりたいのですが……
といっても、笑顔のエミリア様とやる気満々のトリアさんと腕組みをして高みの見もの状態の先代様の牙城を崩せるだけの力はありません。
僕は、またもやがくりと崩れ落ちてしまいました。
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