散歩の三百十一話 先代様の愛人?

 試食自体は午前中で終わったので、僕は午後からは辺境伯様の書類整理に戻りました。


「へあぁぁぁ……」

「辺境伯様、ここで頑張らないとエミリア様から夕食も抜きと言われてしまいますよ」

「よし、頑張ろう」


 スー達も、段々と辺境伯様の扱いが分かってきました。

 辺境伯様にとって絶対的な存在であるエミリア様とケントちゃんの存在を思い出すと、直ぐに真面目モードになります。

 辺境伯様自体の能力はとても高いから、真面目モードになると物凄い勢いで書類を整理していきます。

 あとは、この真面目モードがどのくらい継続するかが鍵ですね。

 という事で、何とか辺境伯様の体力と気力もギリギリ持ちこたえたみたいで、沢山あった書類も綺麗さっぱりなくなりました。


「そう言えば、綺麗になった執務室は初めて見ましたね」

「書類で埋もれていましたからね」

「へあぁぁぁ……」


 またもや全ての体力と気力を使い果たした辺境伯様はさておき、僕とスーは綺麗になった執務室を見ていました。

 手が空いたので交代で辺境伯様の監視をしつつ、執事さんと侍従と共に皆で部屋の掃除をしていました。

 お陰でとっても、気持ちの良い執務室になりました。


 かちゃ。


「うわー、きれー!」

「ふむ、中々の手際の良さだな」


 夕方になった所で、外に出ていたケントちゃんと先代様が執務室の中に入ってきました。

 綺麗になった執務室に二人ともご機嫌なのだが、ヘロヘロになった辺境伯様はスルーしていました。


 ガタガタガタ。


「うんうん、綺麗な部屋だと気分も捗るわね」


 そして、前日に引き続いて台車に大量の書類を乗せたエミリア様が部屋の中に入ってきました。

 あれが、今日の外回りの結果ですね。

 昨日とほぼ変わらない量だし、今日は昨日の積み残しもやったから明日は早く書類処理が終わりそうですね。


「一先ず、急ぎの書類はこれで終わりね。だから、辺境伯様の監視は特別な侍従に任せて、明日はシュン達も私と一緒に外回りよ」

「特別な侍従って、そんな人がいるんですね」

「ええ、お義父様付きだった侍従で、いわば愛人みたいな存在だった人よ。ちょっと怪我をして療養していたのだけど、ホルンちゃんに治して貰ったのよ。街の人も、愛人の件は知っているから全く問題ないわ」


 領民公認の先代様の愛人兼お付きの侍従か。

 そんな人がいたのなら、辺境伯様の暴走も止められそうですね。


「あのね、とっても綺麗な人だったよ!」

「ホルンと同じ天使族なんだって」

「あと、先代様との子どももいた」


 おい、ホルンがちらっと爆弾発言したぞ。

 愛人どころか、子どもまで作っていたのかよ。


「ははは、その侍従が妻を亡くした悲しみを一緒に支えてくれたのでな。辺境伯家の継承権は無いが、キチンと養育費は払っているぞ」

「おねーちゃんは、きれーなんだよ!」


 豪快に笑いながら経緯を話す先代様と、その侍従の子どもを称賛するケントちゃん。

 中々複雑な家庭環境なんだけど、本人同士が認め合っているから全く問題なさそうです。


「へあ……」


 それはそうと、辺境伯様は早く戻ってきて下さい。

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