散歩の三百八話 僕だけ厨房に
さてさて朝食後は今日も書類整理ですが、実はあまりやる事がないのが分かりました。
「辺境伯様、この書類を全て目を通してサインをして下さい」
「はっ?」
辺境伯様は意味不明だという顔をしていますが、こちらは大真面目です。
「あなた、昨日私が持ってきた書類の多くは収穫祭関係のものです。ですので、一刻も早い書類整理が必要です。これも、あなたが口約束で済ませた為ですよ」
「わ、分かりました……」
そう、どーんと机の上に積み上がった書類だけど、全て急ぎで辺境伯様がサインしないとならないので書類整理の必要がないのです。
エミリア様が当然だと言い放つと、辺境伯様はがっくりと項垂れていました。
僕達は、辺境伯様の監視と執事さんや職員さんの手伝いがメインになります。
僕も頑張ろうと思ったら、エミリア様から話しかけられました。
「細かい書類整理がないから、今日はルー達で十分こなせるわ。シュンを借りていくわよ」
「へっ?」
「「「あっ、はい。行ってらっしゃいませ」」」
僕は理由もわからないまま、スー達に見送られながらエミリア様の後をついて行くことに。
「エミリア様、何処に向かうのですか?」
「厨房よ」
な、なんか嫌な予感がするのですが……
まさか、エミリア様は僕が東の辺境伯領や北の辺境伯領で屋台をやっていたのを知っているのでは?
「料理長、シュンを連れてきたわ」
「奥様、ありがとうございます。彼が噂に名高い雷撃の料理人ですな」
厨房に入ると、犬獣人のコックがエミリア様と話をしていた。
もう、これは確定です……
「シュン、収穫祭で提供する料理の研究をお願いするわ。獣人が多いから、豪快な料理にして欲しいのよ」
「エミリア様、僕は冒険者ですが……」
「詳しい事は、料理長に聞いてね。私はもう行くから」
かちゃ。
うん、エミリア様に豪快にスルーされたぞ。
あの位できないと、元王女様で現辺境伯夫人は務まらないのかもしれない。
「いやあ、各辺境伯領で素晴らしい料理を考案した料理人がやってきたと聞いて、是非とも指南をお願いしたいと思っていました」
「あの、僕は冒険者ですが……」
「どんな料理が出てくるか、我々もとても楽しみです」
うう、料理長や他の料理人にもスルーされてしまった。
西の辺境伯領の人々は、本当に細かい事を気にしないんだなあ……
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