散歩の三百六話 先代辺境伯様
夕食時には全員揃ったので、シロ達に今日何をしたかを聞いてみよう。
因みに、辺境伯様はエミリア様の指示で大事な書類にサインをしています。
当分夕食はお預けですね。
「うーんとね、馬車に乗って色々な所に行ったんだよ」
「こんにちはーってしたんだ」
「ケントちゃんと遊んだの」
うん、さっぱり分からない。
とはいえ、エミリア様に教えてくれと言っても絶対に教えてくれないだろうなあ。
「奥様、先代様がお戻りになられました」
「あら、早かったわね」
ここで、執事さんが先代の辺境伯様が帰ってきたと告げました。
そういえば、ずっと姿を見なかったなあ。
がちゃ。
「おーい、帰ったぞ」
「じーじ!」
「ははは、ケンちゃんは元気だったか?」
「げんきー!」
食堂に姿を現したのは、辺境伯様のそのまんま年をとった中年男性でした。
孫にデレデレするのは、どの世界でも共通なんですね。
先代様は、ケントちゃんを抱き上げてほっぺをスリスリとしています。
「エミリア、この人達が例の子だな」
「はい、シュン達になります」
「息子が世話になった。幼い頃に妻が亡くなって男手ひとつで育てたもんでな、ちょっとやんちゃに育ってしまったのだよ」
先代様は、とってもきっちりした人でした。
僕達にも頭を下げてくるし、辺境伯をしながら息子を育てたんだ。
先代様は、自分の席によっこいしょと言いながら座りました。
「祭りの時期は、各地の有力者に会っているんだ。祭りに合わせて領都に集まるのでな。陳情や要望を聞いたり、次年度の予定を伝えたりしている」
早速夕食にありついた先代様は、肉を頬張りながら何をしていたのかを話していました。
領主の座を息子に譲っても、忙しそうにしているんだな。
「で、息子はどうしている?」
「書類のサインをしております。沢山溜まっているので、数日間は缶詰かと」
「はあ、しょうがないな。儂も、明日はエミリアと一緒にあいさつ回りをするか」
「じーじといっしょー!」
「はは、儂もケンちゃんと一緒だな」
先代様、書類の手伝いをしてくれるんじゃないんですね。
僕は、ある意味絶望感に包まれました。
ちらりと横目で見ると、スー達も僕と全く同じ表情でした。
シロ達がしていたのは、恐らく街を歩いて有力者と面会をしていたのだろう。
先代様とエミリアさんの話は終わったみたいなので、
「先代様、挨拶が遅れて申し訳ございません。冒険者のシュンと申します」
「うむ、話はエミリアから聞いておる。大変優秀な冒険者らしいし、数日間は息子の事を頼みたい」
「シュンは辺境伯様にツッコミを入れる事も出来ますし、全く問題ありませんわ」
「ははは、それは頼もしい。辺境伯という立場上、下の者から言われる事は少ないんだ。まあ、本人は庶民気質だからあまり気にはしていながな」
こうして、夕食は和やかに進んでいきました。
因みに、辺境伯様は最後まで食堂に現れませんでした。
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