散歩の二百九十五話 西の辺境伯様が現れた

 そんな事を話していたら、ギルドの受付のお姉さんが個室に再び入ってきました。


「ギルドマスター、その、辺境伯様がおいでになられました」

「「「えっ!」」」


 受付のお姉さんが話した内容に、僕達はびっくりです。

 まさか辺境伯様が冒険者ギルドに乗り込んでくるなんて。

 でもギルドマスターは辺境伯様がここに来る事を何となく予想していたみたいで、全く動揺していません。


「ふう、やはり乗り込んできたか。大方、面倒くさい事は直接片付けるに限ると思っているのじゃないか?」

「ははは、流石だな。俺の思考を良く読んでいる。これも腐れ縁って奴か?」


 そしてギルドマスターの独り言の様なセリフに、笑いながら個室に入ってきた人がいました。

 銀狼の大男で、とってもイケメンで豪華な服を着た狼獣人です。

 もしかしなくても、この人が西の辺境伯様で間違いないだろう。

 辺境伯様は、遠慮なくギルドマスターの隣に腰かけました。


「中々面白い人材が現れたな。それに、大馬鹿者もな」

「「「へ、辺境伯様。ご迷惑をおかけし申し訳ございません」」」


 辺境伯様が豪快に笑い飛ばしながら今回の事を話して来るけど、スーとケーシーさんとテルマさんは顔を真っ青にしながら立ち上がって深々と頭を下げていました。

 そんな三人の様子に、辺境伯様は顎をしゃくりながらふむふむと頷いていました。


「お前ら三人が悪い訳じゃないだろう。特にその二人は冒険者としてあの馬鹿に従っていただけだ。隣の領では獣人の運営する宿には宿泊できないと騒いでいたらしいが、そんなもの年に何回も起こる。気にするだけ無駄だ」


 うーん、獣人らしい豪快な考えなのか、辺境伯様は僕も目撃した宿の騒ぎを笑い飛ばしていた。

 しかし、ここから辺境伯様の表情が一変しました。


「でも、冒険者の偽装登録をした上でこの領都に入るのは駄目だ。お前さん達は正式な冒険者カードでこの辺境伯領に入っているから全く問題ないが、不正な冒険者カードで辺境伯領に入る事はいわば不法侵入になる。この事は、例え貴族であっても辺境伯領に限らずどの領地であっても駄目だ」


 あっ、そういう事か。

 冒険者カードの偽造自体も駄目だけど、正式なカードじゃないから本当は領都に入る事すら駄目なんだ。

 何かの貴族の証で領都に入れば問題ないけど、あの男性冒険者は今回は偽造した冒険者カードで領都に入っている。

 もうこの状態で貴族の証を出したとしても、既に遅しって事になるね。


「辺境伯領への不法侵入の容疑がかかるから、あの馬鹿は軍の施設で取り調べを受ける事になる。当分は解放される事はないだろう」


 なぜ危険を冒してまで西の辺境伯領に来たかは分からない。

 獣人に対して優位になる以外に、何か目的があったのかもしれないね。

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