散歩の二百八十二話 酷い食堂

 そして、予定通りに男爵領に到着しました。

 最初に宿を確保しないといけないのですが、ここで問題発生。


「生憎一つの部屋しか開いていないのですが。部屋は二段ベッドになっております」

「でしたら問題ありませんわ」


 一部屋しか開いてなかったのですが、スーがあっさりと承諾してしまったので宿の問題はあっという間に解決です。


「「「じゃんけんぽん!」」」


 どちらかというと、僕とスーの誰と寝るかを決める熱いじゃんけん大会の方がヒートアップしています。

 この男爵領では二泊して、明日ゆっくりと観光する予定です。

 今日は夕方に男爵領に着いたので、直ぐに夕食と就寝の時間になっちゃいますね。

 でもここの宿は素泊まり専用なので、皆で夕食を食べに街にくりだします。


「あーあ、お兄ちゃんのご飯が良かったな」

「「「ねー」」」

「ねー、じゃないの。スーまで何言っているの!」


 街に出た途端、シロの愚痴に皆が同意していました。

 旅に出て新しい街に行ったら、その街の美味しいものを食べないと。

 という事で、街の食堂に向かいます。

 ところが、選んだお店が大失敗でした。


「美味しくない……」

「ベトベトするよ……」

「お肉も固いよ……」


 お客さんが沢山いて繁盛している店に行ったのに、出された料理が最悪でした。

 油ギトギトで肉も焼きすぎ、塩などの調味料の扱いも駄目でした。

 僕も全く駄目で、アオも消化する気にもなっていません。

 そして、不味い料理に一番激怒したのがスーでした。


「誰ですか、こんな料理を作ったのは!」


 おお、スーが珍しく怒号を上げているよ。

 でも、他の客がニヤニヤとしながらこちらに話しかけてきたぞ。


「ははは、ここの店は一見さんお断りだよ」

「誰かの紹介がないと、駄目だぞ」


 つまりは、この店は初めてきた客にはあえて不味い飯を出すって事ですか?

 店の奥の厨房では、料理人がニヤニヤとしながら僕達の事を見つめていた。

 いくらなんでも、これは酷すぎる。

 流石に僕も頭にきたぞ。

 と、ここで僕達の事に気がついた人達がいました。


「おい、黒髪の少年に金髪の嬢ちゃん、それにスライムと子連れって、あの北の辺境伯領の武道大会大会チャンピオンのパーティじゃないか?」

「黒髪は珍しいから間違いないな。となるとこの店は、雷撃の料理人と聖なる女帝に喧嘩を売ったという事か?」

「不味いんじゃないか? 特に雷撃の料理人は、料理を粗末に扱う奴には容赦なく電撃を浴びせるって噂だぞ」


 僕達の正体を知って、段々と店の中がざわざわとしてきたぞ。

 というか、僕は料理を粗末に扱う人に電撃は……たぶん、使わないですよ。

 流石に今回は分からないけど。

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