散歩の二百四十二話 エキシビションマッチその三
そして武道大会の昼食休憩時に、僕とスーは舞台袖にいました。
どうしてこうなった……
因みにシロ達は、舞台ではなく屋台で頑張ってくれています。
僕とスーがエキシビションマッチをする理由を、辺境伯様に聞いてみよう。
「一つはここにいる者どもに、シュン達の強さを知らしめる為だ。屋台と救護テントに強者がいるとなると、一定の抑止効果がある」
確かに人と接する機会の多い僕達が強いと分かると、アホな行動を控えようとする人は出てくるだろう。
「二つ目は不審者のあぶり出しだ。さっきのフランとホルンの戦いの時も、舞台を見ずにキョロキョロとしていた奴がいたのだ」
二つ目の理由も納得できるものだった。
観客を品定めしているなんて、不審者そのものだろうなあ。
「なので、大魔法は使わずにできるだけ見栄えのする試合をして欲しい」
「分かりました、やってみます」
まあ、派手に見える様にやれば良いので魔法の打ち合いでもすれば良いかな?
それなら観客も盛り上がるでしょう。
そう思っていたら、スーが僕に話しかけてきた。
「シュンさん、胸をお借りしますね」
「はは、どこまでできるか分からないけどね」
スーは、僕との手合わせに少しワクワクしていた。
僕も、初めて会った時からスーがどれだけ成長したか確認してみよう。
そう思いながら、僕は舞台に上がります。
「さあ、エキシビションマッチですが注目の試合となりました。赤コーナー、貴族令嬢なのに称号二つ持ちの冒険者です。救護テントの癒し、スー!」
「あのねーちゃんって、そんなに強かったのか?」
「そういえば、救護テントのナンパ野郎をぶっ飛ばしていたなあ」
「ねーちゃん、頑張れ!」
先ず辺境伯夫人様より、スーが紹介されます。
スーは既に救護テントでならず者をぶっ飛ばしているから、一部の観客はスーの強さを知っている様です。
スーは少し恥ずかしそうにしながらも、観客に向かって手を振っていました。
「青コーナー、南の辺境伯領ではハンバーグ、東の辺境伯領ではカレー、北の辺境伯領ではおにぎりにフルーツサンドを開発した料理人。しかし、称号二つ持ちの冒険者でもあります。屋台の人気料理人、シュン!」
ざわざわ、ざわざわ。
え?
辺境伯夫人様による僕の紹介も大概だったけど、何故か観客が物凄くざわめいている。
何々、何が起きたんだ?
「あのあんちゃん、料理人だよな?」
「まさか冒険者だったとは」
「屋台の主人じゃなかったのかよ」
「色々な料理を開発しているんだな」
「俺、カレー食ったことあるぞ。すげーうまかったぞ」
ははは、予想できたけど僕が冒険者である事に皆驚いているのか。
というか、観客はすっかり料理人って認識なのね。
僕は心の中で泣きながら、開始線に下がりました。
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