散歩の二百三十六話 やはり屋台は大忙し
「朝も見ましたけど、アオさんって本当に強いんですね」
「あれでも、まだまだ手加減していますけどね」
僕と同じく屋台から戦況をみていたシルビアさんが、少し興奮した様子で試合の感想を語っていた。
昨日の魔法戦とは違う剣技戦で、更に興奮する所もあった様です。
「いやあ、あんちゃんの所のスライムはつえーな。間違いなく優勝候補だな」
「このまま順調に行けばですけどね」
「だな。ここはさっぱりと、おにぎりを五個くれや」
「はい、ありがとうございます」
そして、観客がアオが屋台で料理をしているのを知っているので、試合が終わったら屋台に人が押し寄せてきた。
正直な所、これはきついぞ。
「ただいまー、アオ勝ったよ!」
「凄いお客さんだね」
「アオもシロもフランもお疲れ。悪いが直ぐ屋台に入ってくれ」
「「はーい」」
ここで、シロ達が試合から戻ってきた。
さっそくで悪いが、屋台に入って貰った。
「お、試合から戻ってきたな」
「凄い試合だったなあ」
「カッコよかったよ」
「明日も頑張ってね」
あかん。
アオが屋台に戻って来た事で、更に客がどっと押し寄せてきた。
アオも律儀に触手を振っているけど、それどころじゃ無くなってきたぞ。
「お肉サンドイッチ十個だよ」
「おにぎり二十個だって」
「えー!」
シロとフランの声が屋台の中に響くけど、誰だよそんなに注文をした奴は!
僕は受付の方に目をやった。
「辺境伯様、何しているんですか?」
「なに、大会スタッフへの差し入れだ」
「そ、そうですか。毎度ありがとうございます……」
注文主は、護衛を連れた辺境伯様だった。
文句を言いそうになったけど、流石にいうのを止めた。
しかも、大会スタッフへの差し入れなので余計に何も言えない。
僕は急いで肉を焼くことにしたのだった。
「本日のプログラムは全て終了しました。明日は朝九時より試合を開始します」
「はあ、疲れた。一体どのくらい肉を焼いたんだろう」
ひたすら料理をしていたら、いつの間にか試合が全て終わっていた。
昨日とは比べ物にならないくらい忙しかったぞ。
流石は本戦って感じだった。
「私もちょっと疲れました。これでも体力には自信があったんですけど」
シルビアさんも、ちょっとへとへとになっていた。
ひたすら料理していればこうなるよな。
心なしか、アオもぐんにゃりしていた。
侍従も疲れがみえていたので、やはりお客が多かったのだろう。
「お客さんいっぱいだったね」
「ねー」
そしてフランとホルンよ、何故そこまで元気なんだ?
二人もかなりの人を相手に接客していたはずだぞ。
「では、我々も屋敷に戻りますので、御館様に挨拶してまいります」
「僕達も一緒に行きます」
後片付けも終わったので、侍従と共に辺境伯様の所に挨拶に行くことに。
ついでだから、救護テントに寄ってスー達も一緒に行こう。
そう思って、皆で救護テントに近づいた時だった。
ズサー。
「ぶへら!」
「いい加減しつこいの」
救護テントの中から男が吹き飛んで来たと思ったら、激怒モードのホルンがてくてくと歩いてきた。
ホルンが寝不足以外で激怒モードになるなんて珍しいと思ったら、もっと激怒モードのスーが救護テントから出てきた。
「あが、あがが」
「あなた、昨日も来ましたが今日も何回も私たちの事をナンパしていましたよね。しかも、幼いホルンにまで声をかけるなんて」
あー、なんか見たことがあるかと思ったら、昨日もナンパしていた奴か。
自ら死刑執行されるなんて、こいつは相当なドエムだな。
のびているナンパ野郎は、兵に拘束されてドナドナされていった。
きっと、牢屋という素敵な別荘に運ばれるんだろうな。
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