散歩の二百三十五話 武道大会本戦一回戦目

 そんな事を考えていたら、試合が始まってしまった。

 仕方ない、肉を焼きながら観戦しよう。


「それでは、第一試合を開始する。既にその実力は充分示しています。奇跡の魔法使いアオ!」

「「「うおー!」」」

「「「頑張れ!」」」

「「「アオー、がんばれー!」」」


 アオに対する声援が、予選よりも一段と大きくなっています。

 シロ達も、アオを精一杯応援しています。

 アオもくねくねしたり触手をふりふりして、体いっぱい使って声援に応えています。


「続きまして、大剣を操って予選を勝ち抜きました。冒険者ゾンターク!」

「「「こっちも頑張れ!」」」


 対するのは、ロングソードを背中に担いだ短髪ひげ面のイケメンだ。

 手を上げて声援に応えているが、アオへの声援のついでって感じです。


「なお、アオ選手は魔法使い登録ですが、今回は剣技戦を選択しました。使用するのは木剣ですが、魔力を使って固くしています」

「「「すげー! アイテムボックスだ!」」」


 何というか、アオらしいなあ。

 相手に合わせて、剣を選択してきました。

 アオがにゅるんと木剣を取り出すと、観客は更にヒートアップしていました。

 アオと冒険者がお互いに剣を重ねあって、所定の位置に下がります。


「それでは、第一試合開始!」

「はあ!」

 

 しゅ、ガキン!

 ガキンガキン!


「おっと、いきなり両者舞台中央で激しくぶつかった! そしてお互いに切りかかっているぞ」

「「「わー」」」


 いきなりの激しい剣の打ち合いに、観客も大盛り上がりです。

 でも、僕が見る限り両者とも打ち合いながら様子見って感じだな。


 ザッ。


「ここで両者距離を取ったぞ」


 打ち合いを止めて、アオと冒険者は距離を取っている。

 ただし、両者の表情には明確な差があった。

 アオは全然余裕って感じだったが、冒険者の額は汗まみれだった。

 アオのプレッシャーの方が優っているな。


 だっ。


「たまらずゾンターク選手がアオ選手に切りかかった!」


 ひゅん、ひゅん、ひゅん。


「おっと、アオ選手よけるよける。ゾンターク選手の剣がアオ選手に当たらない!」

「「「すげー!」」」


 アオに簡単に剣を避けられてしまい、冒険者はかなり焦っているようだ。

 アオも本気では動いていないし、この勝負はもうそろそろ決着しそうだ。


 たっ。


「はあはあ。く、くそ。レベルが違いすぎる」

「ゾンターク選手、ここで距離を取った。かなり汗だくになっているぞ。大丈夫か?」

「あのスライム、本当にすげーな」

「魔法だけでなく、剣も使えるのか」

「「「アオー、がんばれー!」」」


 あの冒険者もアオと自身のレベル差に気が付いて、打つ手なしって感じだ。

 観客も、二人のレベル差に気が付いています。

 シロ達は、相変わらずぴょんぴょん跳ねながらアオの事を応援しています。

 お、アオがちょっと力を込めたぞ。

 試合を終わりにする気かな?


 しゅ、ガキーン!


「あっ!」


 クルクル、カラーン。


「あーっと、アオ選手が一瞬にして動き、ゾンターク選手の剣をはじき飛ばした!」

「すげー、見えなかった」

「昨日も一瞬で移動したよなあ。スライムの動きじゃないぞ」


 アオは冒険者の懐に入り込んで、冒険者の剣をはじき飛ばした。

 冒険者も一瞬反応したけど、アオの攻撃を防ぐことはできなかった。

 観客も、アオの早業に反応できていなかった。


「ふう、駄目だったか。降参だ」

「ここでゾンターク選手ギブアップです。勝者、アオ!」

「「「わーい」」」


 冒険者もあっさりと負けを認めた。

 どうあがいても、アオには勝てなかっただろうな。

 シロ達もアオの勝ちが決まって、嬉しそうにぴょんぴょん跳ねています。

 アオと冒険者は、お互いに握手をして下がっていきました。

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