散歩の二百三十四話 本戦の開会式開始

 ひたすら仕込みをしていくと、舞台から少し歓声が上がっていた。

 良く見たら辺境伯家の皆さんが到着していて、周りの人が声を上げていたのだ。

 となると、もうそろそろ開会式が始まるのかな?


「シロ、フラン。先に開会式に行っていて良いぞ」

「分かった。ホルンにも声をかけていくね」

「アオ、行こう!」


 流石に遅刻させる訳には行かないので、先にシロとフランとアオを舞台へ向かわせます。

 救護テントをちらりとみると、沢山の人が訪れていた。

 ぱっと見でナンパとかではなさそうなので、僕も一安心です。


「シュン様、ある程度下ごしらえができました」

「うーん。じゃあ、看板娘と料理人がいないけど販売しますか」

「畏まりました」


 今日は侍従も沢山いるし、そもそもシロとフランは声掛けがメインだから接客は侍従に任せています。

 シルビアさんもいるし、スライム焼きはアオが来てからということにして屋台を開けます。


 ジュー、ジュー。


「にいちゃん、屋台開けたのか? あのスライムは舞台にいるが」

「はい。開会式は始まりますが、未だ試合が始まるわけではなので」

「そうかそうか。なら、肉サンドを一つ貰おうか」

「ありがとうございます」


 屋台の前にお客が並んでいたし、アオが既に舞台にいるのに気がついている人もいます。

 開店早々大忙しだけど、開会式が始まれば少し落ち着くはずです。

 そう信じて、とにかく料理を作ります。


「おにぎり三つくれや」

「こっちは肉サンド四つな」

「はい、ただいま」


 嗚呼、完全に失敗した。

 開会式が近づく程多くのお客が押し寄せてきて、大忙しになっています。

 周囲の屋台も忙しそうなので、うちの屋台だけではなさそうです。

 シルビアさんも侍従も、忙しく動いています。

 そんな中、遂に開会式が始まります。


「静粛に、これより辺境伯様より挨拶がございます」

「ごほん。予選も白熱していたが、いよいよ本戦が始まる。今年は楽しみな選手も集まったので、皆も楽しみしているだろう。それでは、武道大会本戦を開催する」

「「「うおー!」」」


 観客の大きな歓声が辺りに響いています。

 この歓声を聞くだけで、観客が本戦をどれだけ待ちわびていたのかが良く分かります。


「それでは、組み合わせ抽選をおこないます。抽選は、予選勝ち抜き順に行います。最初にアオ選手前へ」

「可愛いね」

「こっちに手を振っているよ」

「頑張れよー!」


 予選勝ち抜き第一号のアオが、周りの歓声に触手をふりふりしながら抽選ボックスに向かいます。

 アオは、小さな子どもや女性にもとっても人気が出ています。

 屋台のお客も、アオに向けて声援を送っています。

 アオがひょいとテーブルに飛び乗って、くじ引きみたいな筒をからからとして棒を取り出します。


「決定しました。アオ選手は一番を引きました。この後、第一試合となります」

「「「わー」」」


 おーい、マジですか。

 第一試合って事は、抽選が終わったら直ぐに試合じゃないですか。


「フルーツサンドイッチを四つ下さい」

「俺は肉サンドを五個だ」

「はい、少しお待ちください」


 開会式が始まっても、屋台の忙しさが全然止まらない。

 この状態では、とてもアオの試合の観戦にはいけないぞ。


「シャドウ選手、七番です」


 おっと、あの不気味な魔法使いがアオと当たる場合はベスト四か。

 いずれにせよ、大会三日目だな。


「おにぎり十個下さい」

「肉サンド八個だ」

「はい、ただいま」


 うん、僕はこの屋台との戦いを勝ち抜かないとならないぞ。

 さて、屋台をどうしようかな?

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