散歩の二百三十話 シルビアさんが辺境伯家に逗留することに

「紅茶をどうぞ」

「あ、ありがとうございます」


 応接室に通された僕達に、侍従が紅茶を入れてくれます。

 うん、まだまだ緊張しているなあ。


 バリボリバリボリ。


「今日もお菓子美味しいね」

「これ、フラン貰い」

「ああ、ホルンが食べたかったのに」

「ふふ」


 そしてシロとフランとホルンよ、夕食前なのにお菓子をいっぱい食べないの。

 はしゃいでいる三人の様子を見て、シルビアさんもようやく落ち着いた様です。

 そんな中、ふとシルビアさんが僕に話しかけてきました。


「シュンさん、シュンさんは料理人なのに魔法が使えるんですね。あの生活魔法は凄かったです」

「「ぶふっ」」

「えっ? えっ?」


 スーにフィーナさんのお兄さん、シルビアさんの話を聞いて噴き出すのは酷いですよ。

 流石の僕でも、その反応はへこみますよ。

 シルビアさんも、二人の反応を見て何が何だか分からないって表情をしています。


「シルビアさん、僕は治癒師寄りの魔法使いで冒険者です。料理人ではないですよ」

「えっ、そうなんですか? 街の人もシュンさんを凄腕の料理人だって言っていましたよ」

「ああ、何でこんな事に……」


 僕は心の中で号泣してしまった。

 うう、いつになったら治癒師として働く事が出来るんだ。

 念の為にと、僕は自分の冒険者カードをシルビアさんに見せた。

 

「え、Dランクで二つの称号持ちですか! シュンさんって凄い冒険者だったんですね。私はまだFランクなんですよ」

「おー、シルビアはフランと一緒なんだね」

「ホルンもFランクだよ」

「Fランクでも称号持ちなので、私とは全然違いますよ」

「「そーなの?」」


 フランとホルンが一緒だと言ってシルビアさんに冒険者カードを見せてきたけど、称号持ちはランク上扱いになるから同じではないんだよね。


「ははは、仲良くしているようだな」

「ええ、本当ですわね」

「フィーナも仲良くして下さい」


 ここで、辺境伯夫妻とフィーナさんが応接室に入ってきました。

 僕達とシルビアさんが仲良く話をしているのを、良い感じだと捉えている様です。


「宿の件は聞いた。現場の捜索も必要だから、当分の間は我が家に滞在するがよい」

「勿論お金は不要よ。辺境伯領内で起きた事件の被害者ですし、何よりも屋台を手伝ってくれていますからね」

「わーい、シルビアお姉様と一緒です」

「申し訳ございません。よろしくお願いします」


 シルビアさんも下手に断るといけないと思ったので、素直に屋敷に泊まると話した。

 これでシルビアさんの事は大丈夫だし、結果的にだけど辺境伯家とシルビアさんが急接近した事になった。


「後は、少し面倒な事になったぞ。あの馬鹿が持っていた武器だがのう、あのレッドスコーピオンに関与する者から購入した事が判明した」

「「レッドスコーピオン!」」


 辺境伯様から、まさかこの名前が出てくるとは。

 僕とスーはレッドスコーピオンの名前を聞いて、思わず声を出してしまったよ。

 シロ達とシルビアさんはキョトンとしているけど。


「既に王城に連絡しておいた。陛下も頭の痛い事だと嘆いておったぞ」

「南の辺境伯領に東の辺境伯領と続いて、北の辺境伯領でもこの名前が出てきましたから」

「うむ、王都でも構成員を捕縛しているらしい。何故か分からないが、奴らの活動が活発になってきたとみていいだろう」


 となると、もしかしたら武道大会にレッドスコーピオンの関係者が混ざっているかもしれない。

 筆頭はあの黒いローブを羽織った人だけどね。

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