散歩の二百二十九話 踏んだり蹴ったり
「流石はアオだな。犯人を簡単に無効化するとは」
「電撃だと人質のお姉さんもビリビリしちゃうから、暗闇にしたんだって」
「凄いな、そういう配慮もできるとは」
アオの言葉をシロが翻訳してフィーナさんのお兄さんに伝えているけど、まさかブライトネスを使うとは思わなかった。
てっきり電撃を使うかと思ったけど、人質の配慮までしていたとは。
「さて、犯人は捕まえたが問題はこの部屋に宿泊している人の事だな」
「部屋がボロボロで、とても寝られる状況ではないよなあ」
ベッドにも思いっきり足跡がついてぐちゃぐちゃになっているし、そもそも現場検証もしないといけないからこの部屋で寝られるはずもない。
すると、おずおずとシルビアさんが近づいてきた。
もしかして、まさかのまさかですか?
「はい、この部屋に宿泊していたの、私です」
「そ、そうか。この部屋に荷物は置いてあったか?」
「はい、着替えとか入れてあるリュックがあります。部屋の隅で踏まれていましたが」
「すまないが、念の為に中身を確認してくれ」
「はい、分かりました」
うん、シルビアさんにかける言葉が見つからない。
今朝はスリにあって有り金を盗まれて、試合にも負けた。
更に宿の部屋は犯人が籠城して滅茶苦茶になっているし、荷物も思いっきり踏みつけられていた。
なんというか、ここまで不幸が連鎖するとは。
「着替えは洗えば大丈夫です。他の物も大丈夫でした」
「そうか、それは不幸中の幸いだ。シルビアは今夜は我が家に泊まるが良い」
「そうですね。この部屋に泊まるのは無理ですし、他の宿も空いてないでしょうから」
「ええー!」
僕が言うのも何ですが、今は辺境伯家に泊まる方が良いかと。
このままでは野宿になるし、取り急ぎ今夜寝る場所を確保した方が良いですよ。
と、その前に。
「シルビアさん、リュックに生活魔法をかけて綺麗にしますね」
「えっ! お、お願いします」
おや?
何故か僕が魔法を使うといったら、シルビアさんがかなりビックリしていた。
とりあえず、念入りに生活魔法をかけてリュックを綺麗にしよう。
ぴかー。
「うわあ、リュックが新品みたいに綺麗になっています!」
「服も綺麗にしておきました。まあ、一度洗濯した方が良いですね」
「屋敷に帰ったら、洗濯を侍従に頼むか。リュックの修繕もしたほうが良いな」
「そうですね。踏まれてほつれてしまっている所もあります」
宿は兵が色々手続きをしてくれる事になったので、僕達はそのまま馬車に乗って屋敷に向かいます。
うん、シルビアさん豪華な馬車に乗ったらがちがちに固まってしまったぞ。
「ふわぁ……」
更にシルビアさんは、とても大きな屋敷と広い庭を見てびっくりしています。
開いた口が塞がらないっていうのは、こんな感じなんだ。
「お帰りなさいませ」
「ほえええ……」
そして屋敷に入ると僕達の事を侍従が出迎えます。
侍従の綺麗な礼を見たシルビアさんは、なにやらとても感激しています。
「客室を準備してくれ。シルビアが泊まることになった」
「畏まりました。皆様は応接室でお待ち下さい」
「うむ、父上と母上も呼んでくれるか?」
「直ぐにお呼びいたします」
さっきの事件の件を話さないといけないので、僕達は一旦応接室に集まります。
今日はまだまだ色々な事が続きそうだぞ。
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