散歩の二百二十八話 有り難くないイベントが発生
そんな事を思っていたら、今日はまだイベントが待ち構えていた。
それは僕達が屋台の片付けをして、フィーナさんのお兄さんに挨拶をしにいった時だった。
「シュン、ちょうど良かった。冒険者絡みで、トラブルが発生した」
「えっ、トラブルですか?」
「ああ」
フィーナさんのお兄さんの表情を見る限り、ちょっと面倒くさい案件の様だ。
ちょうど治療班のスーとホルンもこちらに来たので、詳しい話を聞くことになった。
「一つはスリ集団で、これは兵が拘束した。シルビアの財布も恐らくあるだろう」
「あ、ありがとうございます」
スリ集団がいたのか。
人が沢山集まるから、スリにとっては格好の舞台なのだろう。
明日からが本戦だから、いくら兵がいるとはいえスリなどの犯行は継続して警戒しないと。
「もう一つが問題で、予選敗退者に声をかけて犯罪組織に入れようとした者がいた。数名を兵が拘束したが、残りが逃走して冒険者が多くいる宿に侵入して籠城しているのだ」
「もしかして、りんご亭でしょうか?」
「その通りだ。シルビアが泊まっている宿か?」
「はい、そうです」
シルビアさんの泊まっている宿で、籠城が発生しているとは。
フィーナさんのお兄さんは現場指揮を取るので、僕達と共にりんご亭に向かいます。
因みにフィーナさんは厳重警備を敷いて、侍従と共に屋敷に帰ったそうです。
「ブロード様、わざわざ申し訳ありません」
「いや、重大な事件だから、私が駆けつけるべきだろう」
現場となっているりんご亭は、広場の直ぐ側でした。
僕達がりんご亭に駆けつけると、フィーナさんのお兄さんに兵が話しかけます。
「して、現場はどうなっている?」
「犯人は最上階の部屋で宿の娘を人質にとっています」
「ちっ、何ということを。私も向かうぞ」
「はっ、お供致します」
おお、フィーナさんのお兄さんは珍しく物凄く不機嫌だ。
人質をとっているなんて、本当にありえないぞ。
僕達も、現場となっている部屋に向かいます。
「人質を解放しろ!」
「今すぐ投降しなさい」
りんご亭は三階建てで、一番手前の部屋に犯人が立て籠もっていた。
犯人に投降を呼びかけている兵の隙間から部屋の中を見ると、三人の犯人がいて一人が女性を羽交い締めして刃物を突きつけていた。
犯人も、言葉にならない何かを叫んでいた。
部屋の中はぐちゃぐちゃになっているし、床にはのびている犯人もいる。
うーん、話し合いでは解決できないし、これは完全に膠着状態だぞ。
ちょいちょい。
「うん? もしかしてアオが行くつもりか?」
「反対の部屋の窓から侵入するって」
「よし、任せよう」
フィーナさんのお兄さんの許可も取ったので、アオはすすすっと隣の部屋に入っていきます。
因みに隣の部屋にも万が一に備えて兵がいますので、不法侵入ではないですよ。
そして、犯人が立て籠もっている部屋に、アオが窓から侵入しました。
フィーナさんのお兄さんが、アオに向かってコクリとしました。
ぼわーん。
「あっ? な、何も見えないぞ!」
「な、なんだこりゃ」
「くそ、取れないぞ」
アオが犯人の顔をブライトネスで覆いました。
すると突然何も見えなくなった犯人が、顔を覆っているブライトネスを取ろうともがき始めました。
「確保!」
「「「はっ」」」
この瞬間を、兵は逃しません。
あっという間に、犯人は確保されました。
人質も無事です。
因みに、ブライトネスは二十秒程で綺麗さっぱり消えていました。
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