散歩の二百二十一話 対戦相手が勝手に自爆

「アオ、やっちゃえー!」

「いけいけ!」

「がんばれー!」


 ステージの外から、シロ達が元気よく声援を送ります。

 アオもシロ達の方を振り返って、触手をふりふりしています。

 何というか、余裕だな。


「ぐっ、抜け、抜けない」


 一方の嫡男はというと、未だにステージに突き刺さった剣が抜けなくて四苦八苦しています。

 アオが辺境伯夫人様の方を向くと、辺境伯夫人様も顔をくいっとしてやっちゃえってジェスチャーをしました。

 

 だっ。


「ぬ、抜け、ぐぼあ!」


 ずさー。


「おっと、ここでアオ選手の強烈な体当たりがチキン選手の鳩尾に直撃した! いや、チキン選手の剣がステージから抜けたので結果オーライか?」

「がはは、景気よく吹っ飛んだな」

「立派な鎧を着ても、中身がすっからかんじゃねえのか?」


 アオのタックルを受けた嫡男は、五メートル位吹っ飛んだぞ。

 大きなダメージを受けなくても、衝撃は感じるだろうな。

 観客も吹っ飛んだ嫡男を見て大笑いです。


「く、くそう。こ、殺してやる!」

「おっと、ここでチキン選手が走り出したぞ」


 ここで激昂した嫡男が、アオに向かって走っていき思いっきり剣を振り下ろしてきた。

 スライムにバカにされたと思っているそうだけど、嫡男が自爆しているだけだよな。


「うおらー!」


 ばし。


「な、なんとチキン選手の振り下ろした剣を、アオ選手が真剣白刃取りで受け止めた!」

「なんだなんだ、今度はスライムに剣を受け止められているぞ」

「ぶはは、剣を振り下ろす速度が遅かったからなあ」


 観客の罵声も良く分かります。

 その、嫡男の剣を振り下ろす速度が命中を主にしたからかなり遅かった。

 フランやホルンでも、真剣白刃取りができそうだぞ。


 ぶおん、ぶおん、ぶおーん。


「うお、うわ、うわー!」


 ずささー。


「おーっと、今度はアオ選手が剣を掴んだままジャイアントスイングでチキン選手をぶん投げたぞ!」

「あのあんちゃんはよく飛ぶなあ」

「ははは、中身が空っぽだという証拠だな」


 うーん、あの嫡男は本当に駄目ダメだな。

 折角良い装備なのに、全く使いこなせていない。

 観客のいう通り、中身が駄目なんだろうな。

 そして、ここで嫡男に異変が発生する。


「ぐ、ぐぐぐ、ぐぞ」

「おっと、チキン選手が剣を杖代わりにしているが、中々立ち上がらないぞ」


 なんだろう、嫡男は産まれたての子鹿の様にぷるぷるしながら頑張って立ち上がっています。

 原因は直ぐに分かりました。


「開始一分で魔力が切れましたね」

「うん、短い稼働時間だったね」


 スーのいう通り、嫡男が保有していた僅かな魔力があっという間に尽きてしまったのだ。

 お陰で魔道具として動かなくなった鎧は、ただのプレートアーマーでしかなかった。

 あの鎧、鎖帷子も含めるともの凄い重量だろうな。


 ととと。


 アオが嫡男の様子を確認しようと近づいた時だった。


「お、おあ? おあー!」


 ずてーん。


「ああ、なんということでしょうか。チキン選手、鎧が重くてまたもや転倒してしまった。しかも顔面からいったぞ!」

「がはは、ははは」

「は、腹いてー、ははは」

「「「ははは!」」」


 立ち上がろうとしてすっころんだ嫡男を見て、観客は大爆笑です。

 というか、シロ達もすっころんだ嫡男を指さして大爆笑しています。

 そんな中、アオと審判だけが冷静に嫡男に近づきました。

 そういえば、すっころんだ嫡男がピクリとも動かないような。

 

「試合終了。救護班、担架を。早く!」


 嫡男の様子を見た審判とアオが、担架を急かす様に言っている。

 そして、担架がステージに運び込まれた。

 しかも、さり気なく試合終了とまでいわれたぞ。

 え、どういうことだ?

 辺境伯夫人様も、流石に嫡男の様子が気になった様です。


「ど、どうやらチキン選手は転んだ際に頭を打って気絶してしまった様です」

「「「えー!」」」


 観客もびっくりしているけど、僕もスーもびっくりです。

 フルフェイスマスクの兜を脱がされた嫡男は、ピクリとも動いていません。


 ぴかー。


「おっと、ここでアオ選手がチキン選手に回復魔法をかけています。何という素晴らしい精神なのでしょうか」

「いいぞー!」

「立派だぞ!」


 念の為にとアオが回復魔法をかけると、観客から大きな拍手が起きました。

 アオは触手をふりふりしながら、シロ達の方に向かっていきました。


「アオちゃん、カッコいいよ!」


 フィーナさんもパールも、アオに向けて精一杯拍手をしていました。

 まあ、アオの勝ちには間違いないからなあ。


「さて、ヤツは救護テントではなく牢屋行きだな。母上が指示しているから問題なさそうだが」

「救護テントに運ばれても、私はあの人を治療するのは嫌ですよ」

「僕も嫌ですよ」


 僕とスーだけでなくフィーナさんのお兄さんからも、嫡男はボロクソに言われていた。

 こうして、アオの一回戦は良く分からないまま終わったのだった。

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