散歩の二百二十話 アオの予選第一試合開始

 そして、ステージ上でも少し動きがあった。

 審判が、何故か真っ青な顔をして辺境伯夫人様に話しかけたのだ。

 辺境伯夫人様は審判の話に頷いて、舞台袖の係に何かを伝えた。

 そして、審判が交代することに。

 審判の顔が真っ青だから、もしかしたら体調が悪かったのかな?


「それでは、休憩前最後の試合を開始する」

「「「おー!」」」


 辺境伯夫人様は、審判の準備が出来た所でアナウンスを始めた。

 昼食休憩前ってのもあって、観客も盛り上がっています。


「赤コーナー、オオアク伯爵家嫡男チキン」

「「「ブーブー!」」」


 えっ?

 あの嫡男の名前を辺境伯夫人様が呼んだら、観客から大ブーイングなんですけど。

 大ブーイングの理由は、フィーナさんのお兄さんが教えてくれました。


「ヤツは、事あるごとにフィーナを嫁にすると豪語しているんだよ。街の人も知っていて、ヤツの事が大嫌いなんだ」


 うわー、何で馬鹿なヤツなんだろう。

 フィーナさんのお兄さんの話を聞いたスーも、思わずドン引きしていますよ。


「青コーナー、奇跡の魔法使い、アオ!」

「頑張れー!」

「あの馬鹿をやっつけちまえ!」


 続いてアオの名前が呼ばれると、一転して大歓声が上がりました。

 一部過激な歓声が上がっているが、気にしなくて良いでしょう。

 アオも触手をフリフリして、観客からの歓声に応えています。


「では、試合時間は十分だ。お互いに握手……」

「ふん、スライム如きに握手は不要だ」

「「「ブーブー」」」


 嫡男は審判の話を無視して、フルフェイスの兜を閉じながらアオから距離を取った。

 アオは触手を出して握手する気満々だったのに、スルーされた格好だ。

 そして、この嫡男の行動に観客からまたもや大ブーイングが上がった。

 アオはかなり怒りながら、審判との距離を取った。

 審判もなすすべなしって表情です。


「両者構えて、試合開始!」

「「「おおー!」」」


 審判もさっさと試合を始めようと、開始の合図をしました。

 すると、嫡男は鞘から剣を抜いて魔力を溜め始めました。

 うん、この時点でルール違反だぞ。


「ふふ、スライム如き試し斬りにはならんだろうな」

「おっと、チキン選手の剣が光り始めた。一方のアオ選手は、魔法障壁を展開しています」


 フルフェイスの兜から、アオを馬鹿にした声が聞こえます。

 表情は伺えないけど、ニヤリとしているんだろう。

 アオは小さな魔法障壁を出して、迎撃準備完了です。


「うおおおお!」

「チキン選手が剣を持って走り出した!」


 うん、なんだ、その。

 嫡男が剣を構えたまま勇ましく走り出したけど、走る速度が遅すぎる。

 プレートアーマーとはいえ、魔導具の効果があるならもっと速く走れるだろう。

 アオは気を抜くこと無く、迎撃体勢を保持しています。


「くらえ!」


 ブオン、ドカーン!


「チキン選手、アオ選手目掛けて剣を振り下ろした! そして、謎の爆発が起こったぞ!」


 嫡男は、アオ目掛けて剣を振り下ろします。

 そして、ステージに剣が刺さると、大爆発を起こしました。

 辺境伯夫人様も、嫡男の違反など全く気にせずに実況を続けています。

 

「うん? くそ、剣が抜けん!」

「ガハハ!」

「何をやっているんだ!」

「馬鹿がいるぞ! ははは!」


 そう、大事な事なのでもう一回言います。

 嫡男の振り下ろした剣は、ステージに突き刺さったのです。

 魔法障壁を構えているアオの脇に。

 そして、嫡男はステージに突き刺さった剣が抜けなくて四苦八苦しています。

 嫡男の間抜けな様子に、観客からは笑いが起きていました。

 一方のアオはというと、ステージに突き刺さった剣と四苦八苦している嫡男を交互に見て、マジって表情をしています。

 アオも全く動いていないのに、まさか嫡男の振り下ろした剣が自分に当たらずにステージに突き刺さるとは思っても見なかった様です。

 うん、この勝負もう決まったな。

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