散歩の二百十四話 またもや屋台の料理人に
武道大会の三日前、予定通りに僕達はフィーナさんと辺境伯夫人様と共に馬車に乗って武道大会の会場となる広場に向かいます。
「うわあ、色々な物が出来ているね」
「屋台もあるよ」
「席がいっぱい」
「明日から予選が始まるから、ほぼ準備はできているわ」
シロ達は、舞台や周辺の設備を見てとてもびっくりしています。
辺境伯夫人様の言う通り、明日から実質的に武道大会が始まるので観客席などは準備万端です。
広場に沢山の椅子が並べられていて、ここに人が集まったら凄い事になるぞ。
さて、ここまで準備が出来ている中、僕達は何をすれば良いのかな?
「フィーナとシロちゃん達は私の後についてきて。辺境伯家の席をチェックするわ」
「「「「はい」」」」
「スーは、医療班の所で待機して貰えるかしら。建設現場って怪我人が多いのよ」
「分かりました」
シロ達とスーは、辺境伯夫人様より成程という役割を与えられた。
辺境伯家の席は最終チェックが必要だし、まだ現場作業を行っているから怪我人も出るだろう。
現に、目の前で手から出血した作業員が治療用のテントに運び込まれていた。
さて、僕もスーと共に怪我人の治療をしようかなと思ったら、辺境伯夫人様に止められました。
「あ、シュンには別の役割があるわ。うちの侍従がいる屋台に向かってくれない?」
「えっ?」
「お願いね」
これは嫌な予感がするそ。
辺境伯夫人様が指さした屋台では、侍従が僕の作った料理の試作を行っているぞ。
しかも、ニコリと有無を言わせない笑みを僕に向けてきた。
僕はしぶしぶ屋台に向かいました。
屋台には四人の侍従がいて、主に二人が僕に質問してきました。
「シュン様、お待ちしておりました」
「シュン様が考案して頂いた料理のチェックをお願いします」
「はい、分かりました」
良かった、良かったぞ。
僕が料理を作るのではなく、侍従が作った料理のチェックをするのか。
そういう事なら、僕は幾らでもやりますよ。
という事で、早速調理工程からチェックしていきます。
「フルーツサンドイッチは、果物をふんだんに使いました」
「お肉は食べやすい様に、あまり厚く切らない様にしました」
「工夫してくれてありがとうございます。とても良い出来です」
侍従がそれぞれ創意工夫をしていたので、僕が作るよりも更に美味しい物に仕上がっています。
流石は辺境伯家の侍従です、味もとても良いです。
と、ここで気になった物が。
「焼きそばも作るんですか?」
「実は、東の辺境伯領の花見まつりで流行ったという焼きそばパンを作ろうとしたんです」
「ですが、中々上手くいかなくて」
「そういう事でしたらお任せを。何を隠そう、焼きそばパンを作ったのは実は僕なんで」
という事で、焼きそばパンを作る事にしました。
焼きそばパンに使う焼きそばは、少し濃いめに味付けをしないといけないからなあ。
因みに、今回はカレーは見送りです。
というのも、観客のリアクションでカレーをこぼしては駄目なので。
そんな事を考えながら、焼きそばを焼き上げて焼きそばパンを作ります。
「おお、あんちゃん良い匂いをさせているな」
「ソースの焦げる匂いがたまらんな」
僕が焼きそばを焼いていると、手の空いた作業員がやってきた。
ちょうど良いから、試食してもらおう。
「試食してみますか?」
「おう。おお、ちょっと濃いめの味が良いな」
「焼きそばの味がパンに負けないし、何より手を汚さずに食べられるぞ」
出来上がった焼きそばパンを半分に切って作業員に試食して貰ったけど、中々の出来で一安心です。
おにぎりも試食して貰ったけど、美味しいと喜んで貰いました。
すると、屋台に辺境伯夫人様が近づいてきたぞ。
うん、またもや嫌な予感がする。
「流石はシュンね。遠くから見ていたけど、手際が良いし何よりも接客に慣れているわね」
「東の辺境伯領で散々やりましたから」
うんうんと頷きながら、辺境伯夫人様は僕と作業員を見ていた。
「奥様、あんちゃんは良い料理人だな」
「今年の辺境伯家の屋台は、大行列間違いなしだな」
「そうですわね。とても有り難い事ですわ」
「ちょっと、ちょっと!」
何でいつの間に、僕が屋台の料理を作る事になっているんですか!
僕は今回は治癒師をするために、武道大会のお手伝いをするんですよ。
侍従も何か言って下さい。
「奥様、今年は沢山の客が訪れますからシュン様がいるととても助かります」
「どうか、屋台にシュン様をまわして貰えませんか?」
「良いわよ。治療班にはシロちゃん達も手伝ってくれる事になったのよ」
「そ、そんな……」
辺境伯夫人様の決定に、僕は思わず崩れ落ちてしまった。
嗚呼、またもや料理人になるとは……
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