散歩の二百七話 辺境伯家に新たな命が誕生
そして僕達が服屋から屋敷に戻ってきた時の事でした。
「あれ? 屋敷の中を人が忙しく動いているね」
「一体何があったんだろう」
屋敷に着くと、侍従が忙しなく動いていました。
シロも不思議そうに屋敷の中を見ていました。
すると、辺境伯夫人様が僕達の姿を見つけて、こちらに小走りでやってきました。
「フィーナ、ちょうど良かったわ。店まで呼びに行こうとしたのよ」
「お母様、何かあったのですか?」
「あのね、お義姉さんの赤ちゃんがもうそろそろ産まれそうなのよ」
「「「「えっ!」」」」
辺境伯夫人様の話を聞いて、僕達はビックリしました。
フィーナさんのお義姉さんは臨月なので、いつ赤ちゃんが産まれてもおかしくなかった。
しかし、とうとう出産が始まったのか。
だから、こんなにも侍従がドタバタしているのか。
そして、辺境伯夫人様はスーの方に向き直った。
「スーさんには悪いのだけれど、万が一の事に備えて待機して貰えませんか?」
「ええ、勿論です」
「お母様、アオちゃんもパールちゃんもスーお姉様と一緒にいてくれるって」
「そうね。治療の手は複数あった方が良いわね」
辺境伯夫人はそう言うと、アオとパールを抱いたスーと共に屋敷の奥に向かいました。
流石に男の僕では出産の手伝いはできないし、まして五歳のホルンにも無理な話だ。
ここはスーとアオとパールに、フィーナさんのお義姉さんに何かあった際の対応をお願いしよう。
僕達もあまり騒がしくしてはいけないので、応接室に移動します。
「おお、フィーナか。お帰り」
「お父様、お兄様、執務室ではなかったのですか?」
応接室には、紅茶を飲んでいる辺境伯様とフィーナさんのお兄さんの姿がありました。
お二人は仕事をしている様子ではなさそうです。
「今は屋敷のどこにいても喧騒が聞こえるからね。急ぎの仕事は終えたし、こうして少し離れた応接室に移動したのさ」
「正直な所、仕事が手につかなくてね。でも、こんな時に男は何も出来ないし、神に祈るしか出来ないのさ」
「そうだったんですね」
前世でも出産の時に男性はオロオロする人が多かったって聞くし、こればっかりは仕方無いですね。
「それに、実は早朝から陣痛が始まっていたんだ」
「そうなんですか?」
「妻は初めての出産だから陣痛の始まりだと思わなかったみたいで、ちょっとお腹が痛いかなくらいだったよ。私も母上に聞くまで分からなかったさ」
うーん、男だから陣痛とかは分からない。
ともかく、今は待つしかないなあ。
「うーん、まだかな? まだかな?」
「赤ちゃんが産まれるのって、とても長いんですね」
そして、僕達が服屋から戻って二時間が経ちました。
皆も、固唾を飲んで赤ちゃんが産まれるのを今か今かと待っていました。
そんな時でした。
かちゃ。
「皆様、お子様がお産まれになられました。元気な男の子ですよ」
「「「「やったー!」」」」
「そうか、男の子か」
「ほら、赤ん坊に早く会ってやるがよい」
「はい!」
侍従が応接室に入ってきて、遂に赤ちゃんが産まれたと告げました。
フィーナさんはシロ達と共に大喜びし、フィーナさんのお兄さんは辺境伯様に促されて奥さんのいる部屋に向かいます。
僕達もフィーナさんとシロ達と共に、フィーナさんのお兄さんの後をついて行きます。
「私だ、入って良いか?」
「ええ、どうぞ」
フィーナさんのお兄さんがある部屋のドア越しに声をかけると、部屋の中から辺境伯夫人が声を返しました。
そして、僕達が部屋の中に入ると辺境伯夫人とスーが出迎えてくれました。
「立派な将来の跡取りですよ。良かったわね」
「無事に産まれました。回復魔法も使うことはありませんでしたよ」
「はい、有難う御座います」
フィーナさんのお兄さんは、ベッドで横たわる奥さんと産まれたての赤ちゃんを見つめていました。
赤ちゃんの周りには、フィーナさんとシロ達がアオとパールと共に赤ちゃんを覗き込んでいました。
こうして、辺境伯家に新たな命が誕生しました。
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