散歩の百三十二話 死屍累々
ペシペシ、ペシペシ。
「お兄ちゃん、起きて」
「起きて起きて」
「起きて」
おう、ここはどこだ?
誰かが僕の頬を叩いてくる。
というか、気持ち悪いし滅茶苦茶頭が痛い。
僕は自分に回復魔法をかけながら、ゆっくりと起き上がった。
「お兄ちゃん、お酒臭い」
「臭い、臭い」
「臭いよー」
「あー、昨日スーにワインを大量に飲まされたからなあ」
僕のお腹の上には、シロとフランとホルンが乗っていた。
お酒臭いって言っているのに、何故かピッタリと僕にくっついていた。
自分に生活魔法をかけても中々お酒の臭いが取れない。
これは、体の中からお酒の臭いが出ているのだろうな。
というか、何故僕はシロ達の寝ていた部屋で寝ていたのだろうか?
全く記憶にないぞ。
「昨日、誰かが僕の事をシロ達が寝ている部屋に連れてきたのか」
「違うよ。ゾンビみたいなお兄ちゃんが、一人で部屋にやってきたんだよ」
「な、なるほど。本能でベッドのある所に動いたのか」
僕の無意識って凄いなあ。
シロから見たら、お化けの様な感じだったのかもしれないけど。
回復魔法のお陰で頭の痛みも良くなったので、僕はシロ達を連れて部屋を出た。
「うーん、頭が痛い」
「気持ち悪い」
廊下に出ると、まさに死屍累々だった。
完全に二日酔いになった人達が、廊下で伸びていた。
「は、はは。あんちゃんよ、スーは化け物だぞ」
「あんなにも酒に強い人を見たことがない」
「えっ!」
僕は倒れている人に回復魔法をかけたけど、まさかスーが僕以外の人も飲ませていたのか?
そんな事を思いながら、僕はパーティルームに入った。
「う、うがぁ」
「く、苦しい……」
「ぁあ……」
「シュン、怖いよう」
「ゾンビだよ」
パーティルームも死屍累々でした。
辺境伯様もギルドマスターも副団長も、他の人も二日酔いで酷い事になっていました。
侍従も水を飲ませていたり介抱していたりと、忙しく動いています。
二日酔いの人の動きがまるでゾンビのような動きの為に、フランとホルンが僕に抱きついて怖がっています。
「すー、すー」
「スーお姉ちゃんは、熟睡しているね」
「そうだね。スーは本当にお酒が好きなんだね」
スーは空のワインボトルを抱きしめて、気持ち良く寝ていました。
ワインが服にこぼれて紫色に染まっているけど、そんな事は関係ない様です。
「先に苦しんでいる人に回復魔法をかけてあげよう」
「ほ、ホルンはちょっと無理だよ」
「仕方ない、僕とアオで二日酔いの人達を治療しよう。シロはスーを起こして」
「分かった!」
未だにゾンビのような動きの二日酔いの面々をフランとホルンが怖がっているので、僕とアオで二日酔いの人を治療していきます。
その間に、シロとフランとホルンがスーを起こします。
「スーお姉ちゃん、起きて」
「起きて起きて」
「起きて」
「うーん、むにゃむにゃ。あふぅ」
三人がかりでスーを揺さぶると、スーもようやく目を覚ました様だ。
むっくりと起き上がって、目を擦っていた。
そして、周りの惨状を目の当たりにしたら、急に意識が覚醒したようだ。
「あー、皆さん。本当に申し訳ないです。私も治療します!」
どうやらスーは、酔っ払っていた時の記憶を覚えていた様です。
直ぐに起き上がって、二日酔いの人達を治療し始めた。
そんなスーに、僕は簡単な質問をした。
「スー、二日酔いは?」
「全然大丈夫です。本当に申し訳ないです」
ワインを飲んでいた時、スーは回復魔法を使っていた気配はなかった。
そして、誰よりもワインを飲んでいたはずだ。
スーの肝臓は、もしかしたら怪物級に強いのかもしれない。
僕はスーに対してそんな事を思ったのだった。
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