散歩の百二十四話 暴走を始めた悪魔

 司祭が恍惚な笑みを浮かべて、腕を広げながらバフォメットの所に歩み寄った時だった。


「す、素晴らしい。とても素晴らしい魔力です。流石は我らの神であられる」

「guuu」

「この力があれば、辺境伯領は我が手の中に落ちるのも時間の問題、グ、グフゥ!」

「aaaa!」

「キャー!」


 司祭がバフォメットに近づいて欲望全開の気持ちをさらけ出していた時、突然バフォメットが司祭の土手っ腹に腕を突き刺したのだ。

 バフォメットの腕は司祭の腹を貫通しており、司祭は口から血を吐きながら驚愕した表情でバフォメットを見ていた。

 余りの衝撃的な光景に、実行委員長の娘さんは思わず悲鳴を上げていた。

 僕だって、目の前の光景から目をそむけたい。

 でも、バフォメットがこの後何を仕出かすか分からないので、僕達はバフォメットから目を離さないでいた。


「か、神よ。な、何故……」


 腹と口から大量の血を流しながら、司祭は困惑した表情でバフォメットに問いかけていた。

 しかし、バフォメットは返事をせず、司祭も直ぐに動かなくなった。


 ぶん。

 どさ。


 そしてバフォメットは、腕に刺さっている司祭の亡骸を教会の床に投げ捨てた。

 まるで興味のないおもちゃを投げ捨てるかの如く、既に司祭の亡骸には一切の関心を示していなかった。


 どす。


「あ、ああ……」

「に、逃げ」


 目の前で起きている衝撃的な光景に驚いているのは、僕達だけではなかった。

 自分達のリーダーである司祭を、自分達が神と崇めていたバフォメットに殺害されたのだ。

 ならず者だけでなく、ローブを着ている者もバフォメットから逃げ出そうとしていた。

 しかし、ローブを着ていた者の一人が完全に腰を抜かしてしまい、床にへたり込んでしまったのだ。

 その際に深めに被っていたフードが脱げたのだが、そこには僕達の冒険者の依頼を受付してくれたお姉さんの顔があった。


 ギロリ。

 どす、どす。


「ああ、ああ」


 そしてバフォメットは、次のターゲットとして床にへたり込んでいるお姉さんに決めたようだ。

 お姉さんは腰が抜けていて、全く動けない。

 バフォメットが近づいてくる恐怖に、お姉さんの目はカッと開いている。


 どす、どす。

 ぺろり。


「ひやぁ、ゔぁあぁ」


 そして、バフォメットはお姉さんの元にたどり着き、お姉さんの顔をぺろりと舌でなめた。

 お姉さんは自身の身に起きている余りの恐怖に涙が止まらず、ガクガク震えていて失禁をして下半身を濡らしていた。


「guaaa!」

「へぁ、あはは……」


 そんなお姉さんの事など意に介さないバフォメットは、お姉さんを食べるかの如く涎を垂らしながら大きく口をあけたのだ。

 お姉さんは、目の前に近づく死の恐怖に錯乱し始めていた。

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