散歩の百九話 屋台と花見客との壮絶な戦い

 そして、本日も花見客と屋台との壮絶な戦いが繰り広げられた。


「おーい、勘定できる奴を連れて来い」

「屋台の人手が足らないぞ」


 スライム焼きは昨日も販売していたけど、カレーは今日が初めての販売だ。

 辺境伯家でも出されたという謳い文句を聞いたのか、興味深そうにカレーを食べる人が多い。

 余りの客の多さに、追加で人手を増やしている。

 そして、カレーの付け合わせはパンではなくご飯を選択している。

 東の辺境伯領で出されるお米はタイ米の様にパサパサしたお米なのだが、カレーと良く合うらしい。

 仮小屋の前にテーブルと椅子の席が増やされたのだが、全く足らない状態だ。

 中には、カレーを食べながらサクラの木の下でゆっくりしている人もいる。

 日本の花見も何でもありだったけど、この世界の花見も何でもありだな。


 カラカラカラ。


「「「こんにちはー!」」」

「おお、来たか。待っていたぞ」


 そして、辺境伯家に保護されている子ども達も馬車に乗ってやってきた。

 実行委員長も子ども達を出迎えているが、だいぶ元気になった様だ。


「毎年屋台は盛り上がりますが、今年は凄いですわね」

「うむ、中々壮観じゃ。皆、笑顔になっておるな」

「新しい食べ物ってのもあるのでしょうね。中には、激辛チャレンジしている人もいますよ」


 子ども達の付き添いに、先代様と先代奥様が来ていた。

 先代様をして、今年の屋台の盛況は凄いらしい。

 カレーを盛り付けながら、僕は先代様と先代奥様と話をしていた。

 すると、カレーを購入していたお客が、先代様に質問をしていた。


「あの、先代お館様。この料理人が、辺境伯家でカレーを出したのは本当ですか?」

「うむ、本当じゃ。我が家にもスパイスを使った料理はあるが、カレーは初めて出たぞ」

「保護された子ども達も、カレー美味しく召し上がっておりましたよ。勿論、孫もですわ」

「あ、ありがとうございます。うおー! 本当に辺境伯家でカレーが出されていたってよ」


 あ、先代様と先代奥様が僕がカレーを提供したと言ってしまった。

 今まで噂だったものが、本当だと分かった瞬間だ。


「マジか、本当に辺境伯家でも出されたのか」

「こりゃ、辺境伯領の名物になるぞ」


 花見客がザワザワと騒めき出した。

 カレーを巡って、騒ぎになってきたぞ。

 そして、更に人を集める事態になる。


「わあ、カッコいいね!」

「この服を着て、声かけしているんだよ」

「僕もやってみたいな」


 辺境伯家で保護されている子ども達が、フランとホルンが法被を着て声かけをしているのを羨ましそうに見ていた。

 そんな子ども達に声をかけた人が。


「お、声かけやってみるか? お小遣いを出すぞ」

「「「やるー!」」」


 実行委員長が気軽に話しかけて、子ども達のやる気を引き出してしまった。

 そして、何故か子ども向けの法被がいっぱいあったのだ。

 スーが生活魔法で法被を綺麗にしているけど、何で子ども用の法被が沢山あるんだ?

 その理由は、先代様と先代奥様が話してくれた。


「ほほほ、懐かしいのう。昔は子ども屋台をやっていた事があったのじゃよ」

「ここには冒険者も沢山いますし、安全ですわ。子ども達も良い経験になるのではないでしょうか」


 嗚呼、過去に子ども屋台をやっていたのか。

 そして、法被を着た子ども達がフランとホルンと共に声かけを始めた。


「「「美味しいカレーはいかがですか? スライム焼きも美味しいよ!」」」


 大勢の子どもの声を聞いた花見客が、更に沢山集まってきた。

 こりゃ、今日も在庫切れの可能性が高そうだ。

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