散歩の九十九話 事件の背景
応接室には僕とスーとアオの他に、辺境伯様と先代様がいる。
侍従も含めて、その他の人は誰もいない。
それだけ、機密度の高い内容なのだろう。
「先ずはお礼を。子ども達の救出を手伝って頂き、本当に助かった。治療も的確だし、流石だと思ったよ」
「真っ先に男に立ち向かったのはシロですから。シロの功績も大きいですよ」
「ほほほ、そうじゃな。後でご褒美をやらんとな」
僕達は基本治療をしただけだし、シロはならず者を倒したりしたもんな。
救出のお礼を受けつつ、本題に入る。
「まず、保護された子どもは違法に集められたので間違いないだろう。そもそもムホウ商会は、他の領地で違法奴隷を扱った罪で追放されている。だから、辺境伯領への進出を認めなかったのだ」
「しかし、既に活動をしていたのは盲点じゃった。これは我々の監視不足じゃな」
ムホウ商会は、本当に名前通り無法状態でやりたい放題だったのか。
前科もあったのに、堂々と活動していたのか。
「でも、何故子ども達を集めたのでしょうか?」
「先ずは資金を得る為だろう。教会も高額な治療費を集めておったし、資金が必要なのは間違いない」
「恐らく人間主義の勢力の活動資金になっている。奴らは、王家と各辺境伯を含む勢力に対して公然と反抗をしておる。頭の痛い問題じゃ」
思いっきり政治闘争じゃないですか。
確かに、この話の内容は商店街の人には話せないな。
「今まで教会本部に抗議を行なっていたが、もしかしたら人間主義派の妨害を受けていた可能性がある。そこで、別ルートで抗議をする」
「スーよ、悪いがこの内容で問題ないか見てくれないか?」
「畏まりました。確認致します」
うん、ここは僕は戦力外だ。
貴族が送る文章の内容チェックに、僕が力になれるはずがない。
三人でタブレットの様な端末を操作してあーだこーだと文章を直している間、僕はアオと一緒にお菓子を食べていた。
「これで大丈夫かと思います」
「いやはや、思い切った内容ですな。これなら、直ぐに動きましょう」
「よし、送信しよう。さて、どんな結果が出てくるか楽しみだ」
文章が出来上がったので、辺境伯様は早速端末を操作していた。
先代様がニヤッとしている事は、スーが凄い文章を考えたんだろう。
「そんなにスーの考えた文章は凄いのですか?」
「いやはや、送信先の相手の事を奮い立たせる様な文章じゃ。これは凄いぞ」
「お、早速返事が来ました。ふむふむ、二週間以内に調査官と教会の聖騎士を派遣すると返事がありました」
「返信文面を見ますと、今回の事でとんでもなく怒っている様ですな。王都にある教会本部にも乗り込むと書いてありますぞ」
すげー。
スーの考えた文章を送ったら、あっという間に事態が動き始めた。
しかし、誰宛に文章を送ったのか怖くて聞けないぞ。
「タイミング的には、花見が終わった頃に調査官が到着しますね。花見が終われば、我々も動く事が出来ます」
「うむ、その際にはこの街の冒険者にも声をかけよう。既に教会の看板の件は、大きな話題となっておる」
「丁度花見もありますし、二週間は最大級の警戒をする様にしましょう。騎士や兵の数を増やしても、花見の為だといえば何も問題ありません」
「花見会場には私達もいますので、気をつける様にしますわ」
ということで、花見期間は厳重警戒となった。
僕達も、二週間は色々気をつける様にしよう。
スーもアオもやる気になっているので、頑張ってもらおう。
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