散歩の八十二話 事件の裏側にあるもの
「今回の件だが、新たな司祭がこの辺境伯領に赴任した事が一番の原因だ。奴はここに赴任するまでは普通の司祭の顔をしていたが、裏では人間主義を唱える過激派の取り纏めをしていた」
「だから、下に動くものもあんなに横暴な振る舞いをしていたんですね。でも、それなら司祭を交代すれば済む話ではないのでしょうか?」
「めんどくさい事に、教会の人事権に対しては例え領主と言えども口を出すことが出来ない。それに教会本部に苦情を入れても、例の司祭を選出した手続き自体は問題ないという。中々手が打てないのが現状だ」
うーん、正に政治的な思惑が絡み合ってどうしようもない状態だ。
辺境伯様でどうしようもないとなると、僕達から手出しができない。
「そこで、君達にも協力をお願いしたい。手出しが出来ないのなら、出だしが出来る理由を探し出せば良いだけだ」
「一種の諜報活動ですか?」
「最初は定期的に街の噂を報告してくれれば良い。こちらは教会関係者がギルドマスター不在時に押しかけた原因を掴まないとならないからな」
「成程、こちらの諜報活動とセットで教会を追い詰める事が出来ればいいわけですね」
「ご明察だ。シュン君は話が早くて助かる」
暫くは相手の出方を見つつ、情報を集めるという事になりそうだ。
僕達も花見での対応もあるし、そこで何か情報を聞く事が出来るかもしれない。
「この事は暫く秘密ですね」
「そうだな。シュンが仮に信頼する冒険者に話すとしても、少し待っていて欲しい」
「分かりました。スー、シロ、アオ、暫くこの事は内緒だよ」
「分かりましたわ」
「はーい」
スーは元からこの件の重要性を分かっているし、シロも僕のいう事は守ってくれる。
諜報活動っていうのもあるので、もしかしたらアオが活躍するかもしれないな。
「僕としては、何故教会がそこまでお金を必要としているのが疑問なんですよね」
「贅沢の為もありそうだが、違った何かがあるかと。そういう事だね」
「はい。その通りになります」
「うむ、良い洞察だ。実は教会の関係者が奴隷市場に出入りしているという噂を聞いたので、配下の者に調査を行わせている。その事と何か関係があるかもしれないな」
「流石は辺境伯様です」
「これ位の事は出来ないとな。父上に叱られてしまう」
集めていた資金の使い道が少し気になっているけど、既に辺境伯様は可能性を追及していた。
奴隷市場は一回見て回るとして、捜査は辺境伯様にお任せしておこう。
「今のところはこんな所だろう。シュンは暫く祭りの対応がメインとなるから、そちらに注力してもらわないとな」
「はい、お任せ下さい」
「じゃあ、話し合いはこの辺にしておこう。折角だから夕食を御馳走しよう」
「わーい、美味しいご飯だ!」
「あ、シロはしたないぞ。すみません、辺境伯様」
「いやいや、期待してくれる分には構わないよ」
辺境伯様はシロの粗相も気にせずニコリとしてくれた。
普段領内の事で忙しいのに僕達への気遣いも頂いた。
という事で、来賓用の食堂に皆で移動です。
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