散歩の七十六話 会場準備と顔見知り

「ここが花見会場だ。川沿いと広場の中にサクラの木が植えてあるぞ」

「まだお花咲いていないね」

「うーん、この様子だと咲くのは五日後かな? 花が咲いた後のこの一体はとても綺麗だぞ」

「そうなんだ、とても楽しみ!」


 地元民だという女性冒険者の後をついていくと、ギルドから歩いて三十分ほどでサクラの木が植えてある花見会場に辿り着いた。

 花見にはまだ少し早いのか、花は咲いておらず枝木のまんまだった。

 だけど花見会場としては日本と同じで、既に出店の場所取りも始まっている。

 サクラの木をよく見ると蕾も膨らんでいて、あと少しで花が咲きそうだ。

 そんな中、スタッフと思わしき人がこちらにやってきた。

 スタッフは、文学少女っぽい姿をしているな。

 どうも女性三人組と顔見知りの様で、早速話を始めている。


「あら、今回は貴方達が手伝ってくれるの?」

「ああ、そうだよ。アンタは実家の手伝いか?」

「そうなの。商会が実家だから、今年は実行委員になっちゃったのよ」

「ははは、ご愁傷さまだな」

「ほんとよ、もう」


 だいぶ親しいのか、お互いに軽口を叩いている。

 実行委員って事は、ここの現場監督みたいなものかな?


「そういえば、昨年いた治癒師は辞めたんだってな」

「いい年齢ってのもあったけど、教会が色々とやらかしたからね。地元の領に引きこもるって言っていたよ」

「うーん、ギルドにも散々口を出してきたんだよ。本当に迷惑な奴らだよな」

「うんうん、本当だよね。花見の事にも口を出してきて、お父さんを怒っちゃったよ」

「ははは、実行委員長を怒らせたとは。奴ら花見会場に出禁になるんじゃないの?」

「既に出禁になっているよ。お父さんだけじゃなくて、他のお店の人も怒らせちゃったから」

「そりゃ、自業自得だな」


 うわあ、どんどんと色々な話が明かされていく。

 スタッフの人も文学少女と思いきや、超毒舌を吐いている。

 教会に対して、相当鬱憤が溜まっているようだ。


「安心しな。今回は治癒魔法が使える人物を四人と一匹連れてきた」

「四人と一匹?」

「先ずはこちらの二人だ。実際に訓練を見たけど、相当な実力者だ」

「シュンです。こちらはスーです。僕は、回復魔法と聖魔法の両方が使えて、スーは聖魔法特化型です」

「ご丁寧にどうも有難う御座います。二人とも聖魔法が使えるなんて凄いですね」


 こっちに話を振られたので、先ずは軽く自己紹介をする。

 丁寧に返答してくれる辺り、流石は商人の娘だと思った。

 しかし、次からの紹介で、段々とおかしくなっていく。


「シロだよ。この子はアオで、回復魔法が使えるんだ」

「へえ、回復魔法が使えるスライムなんて珍しいですね」

「因みに三人と一匹はゴブリンハンターで、あたしなんかは手も足も出ない程のツワモノだ」

「そうなんですね。そういう人がいると心強いです」


 シロとアオの紹介までは良かった。

 ゴブリンハンターの件もバレたけど、特に問題はなかった。

 ここまでは、普通の紹介だった。

 

「武を極めようとしている者だ。聖魔法が使える」

「え! 獣人なのに聖魔法が使えるのですか?」

「うむ。だがまだ覚えたてだから、修業中の身である」

「いえいえ、こちらこそ驚いてしまって申し訳ないです」


 続いて挨拶をした筋肉モリモリのゴリラ獣人だったが、まさかゴリラ獣人が聖魔法を使えるなんて信じられなかったらしく、スタッフの女性はかなりびっくりしていた。


「す、凄いわね今回のメンバー。で、残りの一人は?」

「あたしだ」

「は?」

「だから、あたしだ。回復魔法が使える様になった」

「は? え?」

「これが本当なんだよね」

「私もびっくりしたよ」

「えーーーーー!」

「おまえ、驚きすぎだよ」

「だって、剣しか頭になかった脳筋が回復魔法って。超ビックリだよ!」

「おい、ちょっとまって。誰が脳筋だ!」

「ギャー!」


 そして、トドメにまさかの知り合いが回復魔法を使えることになっていた。

 何だかだいぶ失礼な事を言っているけど、それだけ衝撃的だったらしい。

 剣士の人がスタッフの人にコブラツイストを決めているけど、そこはじゃれ合いだと思いたい。


「ほらほら、そこまでにしなさい」

「あ、おじさん。お久しぶりです」

「お久しぶりです」

「ご無沙汰しています」

「うむ、久しぶりだ。取り敢えず、プロレス技を解きなさい。いつもそうやってじゃれているのだから」

「じ、じゃれているレベルじゃない。ゴホゴホ」


 こちらに一人の男性がやってきたけど、話を聞く限りスタッフの父親で実行委員長の人らしい。

 とてもダンディなお方で、気のせいか、シーフの人の顔が赤いような。


「話は聞いたが、中々の面子が揃った様だな。設営作業もあるから、力を貸してくれ」

「おお、シロにお任せだよ!」

「ははは、頼もしい猫耳のお嬢ちゃんだ」


 実行委員長はシロの頭を撫でつつ、今回の現場に連れて行ってくれた。

 因みにコブラツイストをくらっていたスタッフの人は、散々文句を言っていた剣士から回復魔法をかけられてかなり微妙な表情をしていた。

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