散歩の七十七話 新商品開発!

「公園の管理施設と併設なんですね」

「ああ、ここに臨時で小屋を作って救護施設や迷子案内所にするんだ」

「祭りだと、迷子が出るのは定番ですからね」


 実行委員長に案内されたのは、公園の管理施設。

 トンカンと仮の建物を作る音がこちらにも聞こえてきている。


「うう、先ずは荷物運びと仮小屋を作るのよ」

「おっしゃあ、あたしらに任せな」

「痛い痛い、バンバンしないで!」


 まだコブラツイストのダメージが残っているスタッフの人の背中を、剣士さんがバシバシと叩いている。

 背中を叩かれたスタッフは、荷物の方に歩いて行く剣士さんの方を向いてぶつぶつ言っている。

 聞こえない様に脳筋って言っていそうだぞ。


 とはいえ、先ずは荷物運びだ。

 毎年作っているのか、必要な物は管理施設の倉庫の中から運んでくる。


「おお、猫耳の嬢ちゃん凄いな!」

「へへー! シロは力持ちなんだよ!」


 こういう時に力を発揮するのがシロだろう。

 ひょいひょいと、沢山の木材や必要な物を運んでくる。


「おーい、こっちを押さえてくれ」

「おう!」


 皆でトンカンとやって行くと、あっという間に小屋が完成。

 地中に杭も打ってあるから、安定もしているぞ。

 そこに、簡易ベッドと机を並べて行く。

 

「ふー、まずはこれでオッケーね」

「生活魔法で綺麗にしていきます」

「ええ、ありがとう」


 スーがベッドや机を生活魔法で綺麗にして行く。

 流石に倉庫で眠っていたから、少しホコリで汚れている。

 僕も手伝って綺麗にしたところで次のお仕事に移ろうとしたけど、ここで怪我人が発生。


「ギャー!」


 ドテン。


「ははは、相変わらず鈍臭いね。ほら、治してやるぞ」

「うう、何という屈辱。怪我なんて唾つけておけば治ると言っていた奴から、治療を受けるなんて」


 何にもないところでスタッフが転けてしまい、笑いながら剣士さんが治療を行っていた。

 というかこの二人、とても仲良いな。


 お次は看板設置なのだが、長年使っていたので文字がかすれてしまっている。


「おお、スーお姉ちゃん上手!」

「そ、そうでしょうか?」

「いや、大した物だよ。これなら、遠くからハッキリと見えるぞ」


 そこで、スーがペンキを塗り直している。

 文字も綺麗なので、皆からも絶賛されている。

 ペンキを乾かしてから、看板を仮小屋に設置する。

 とりあえず現場設営はこれで完了。

 

 続いてゴミ箱をトンカンと皆で作って行くが、ここでとある人から声がかかった。

 

「おーい、ちょっと」

「あ、お母さん」

「おばさん、お久しぶりです」

「「お久しぶりです」」

「あらまあ、今年は皆が手伝ってくれるのね。助かるわ。って、そうじゃないの」


 隣の管理施設から、ザおばさんって感じの人が出てきた。

 どうもスタッフの母親で、三人組とも面識がある様だ。


「賄いを作るけど手が足りないの。誰か手伝ってくれる」

「「「さっ」」」


 おい、僕とアオ以外全員首を背けたぞ。

 特にスタッフと三人組は、全力でおばさんを見ない様にしている。

 そこまで料理がダメなのかい!


「では、僕とアオで手伝います」

「シュンお兄ちゃんの料理は美味しいよ!」

「そうかい、悪いわね。ほら、四人ともいい加減料理の一つでもおぼえないと、嫁の貰い手がいないぞ」

「「「「はーい……」」」」


 おばさんは娘を含む四人に忠告しながら、僕とアオを引き連れて隣の管理施設に連れて行った。

 四人は、流石にバツの悪い表情をしていた。


「あんた、料理できる人を連れてきたよ」

「あれ? 四人はどうした?」

「全力で拒否したよ。全く、将来がしんぱいだね」

「ははは、否定できないな」


 父親でもある実行委員長からも四人はボロクソに言われていたが、ここは気にせずに料理を開始する。

 どうも、作ろうとしたのは焼きそばの様だ。

 匂いがこもるといけないから、外でやった方がいいかな?


「すみません、外でやった方が良いですか?」

「ええ、任せるわ」


 という事なので、テーブルを一つ借りて料理をスタート。

 アオと一緒に野菜とお肉を切って、その間に魔道コンロで鉄板をあたためる。

 野菜とお肉を炒めつつ、麺もほぐしていく。

 そして、瓶に入ったソースをふりかけて一気に炒めていく。

 うーん、良い匂いがしてきた。


「お、にいちゃん良い腕しているな」

「料理人としても行けそうだ」


 良い匂いに釣られて、続々と人が集まってきた。

 スーとシロとアオが、出来上がった焼きそばを皿に盛っていく。

 

「あちち、でも旨いな」

「野菜がシャキシャキだな」

「麺もモチモチしているぞ」


 皆お腹が空いたのもあるが、がっついて食べている。

 高評価でよかったぞ。

 何を隠そう、ショッピングセンターのフードコートでバイトした事があるのだ。

 野菜と麺が元いた世界と違っても、基本的な作り方は一緒なのだ。


「うーん! シュンお兄ちゃんの料理はいつも美味しいね」

「本当ね。シュンさんの料理は本当に素晴らしいわ」


 シロとスーもいつも通りにもぐもぐ食べているし、アオもパクパクと食べている。

 しかしながら、ちょっと気になる一角が。


「「「「……」」」」


 例の女性冒険者三人組とスタッフが、大盛りの焼きそばを一気に食べて空になった皿を無言で眺めている。


「あの、どうしました? もしかして不味かったですか?」

「いや、そうじゃねえ」


 何だろう、黙っている理由がサッパリ分からないぞ。

 すると、おもむろに四人が僕の方を向いた。


「にいちゃん」

「なんですか?」

「「「「婿にきてくれ」」」」

「はあ?」


 いきなり何を言い出すかと思ったら、真面目な顔をして僕に婿にきてくれと言ってきた。

 何を言っているんですか!


「あんた達、いい加減にしなさい」


 バシン、バシン、バシン、バシン。


「「「「へぶっ」」」」

「おお、良い音がしたよ」


 と、ここで実行委員長の奥さんが四人の頭を遠慮なく叩いて行く。

 とっても良い音がしたなあ。


「だって、毎日美味しい料理を作ってもらえるよ」

「気がつくし優しいし」

「優良物件じゃない」

「美味しい料理を作ってくれるし」

「だったら、あんた達がうまい料理を作りなさい!」

「「「「無理!」」」」

「あんた達ねぇ……」


 どんだけ料理ができないのだろうかと、奥さんは自分の娘を含む女性陣を呆れた目で見ていた。

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