散歩の七十五話 常識の分からない人

 折角というので、皆でギルドに行く事になった。

 とはいえ、隣の建物なので直ぐに着くけど。


「あれ? 何だか騒がしいよ?」

「本当だ。受付で誰かが叫んでいますね」

「よく見ると、教会の服を着ていますよ」

「絶対に良くない事になっていそうですね」


 ギルドに入ると、中はかなり騒然としていた。

 窓口のお姉さんに教会の服を着た三人組が喰ってかかっている。

 周りにいる冒険者も、教会の服を着た三人に今にも飛び出しそうな気配を放っている。


「すみません、昨日花見会場の救護スタッフの件で申込をしたんですが」

「あ、シュンさん。良かった、来てくれたんですね。チーフ、シュンさんが来てくれました」


 様子を見つつ犬耳のお姉さんの所で受付をすると、今度は僕達に矛先が向く事に。

 どうも昨日受付してくれたエルフのお姉さんが受付のチーフらしく、助かったという表情でこちらにやってきた。


「すみません、シュンさん。急に面倒な事に巻き込んでしまって」

「一体何があったんですか?」

「実は教会が救護担当が決まったという事を信じておらず、相変わらず強引な押し売りをしてくるんです」


 ふと教会の服を着た人を見ると、何だか良く分からない事をぎゃーぎゃー言っている。

 うーん、何だか悪人の感じもするしシロもアオも超警戒しているぞ。

 すると、今度はこっちにやってきて噛みついてきた。


「ふん、素直に教会に任せればいいのだ」

「「そーだ、そーだ」」


 なんだろう。

 聖職者なのに、とっても頭が悪い人に見えるぞ。

 一緒に宿から来た人も、かなり呆れた顔をしている。

 なので、僕は感情論に任せないで話をする事にした。


「受付のお姉さん。これは花見会場の運営とギルドとの契約であって、僕達が依頼を受けた以上他の人が無理やり入り込んだら契約違反になりますよね? 確か、かなり大きな罰になるかと」

「はい、他人の得た利益を盗み取るのは冒険者ではやってはいけない事の一つです。一発でライセンス取り消しもあり得ます」

「ですよね。僕は昨日の内に依頼契約を結んでいますので、今日この場に来て騒いでも、優先権はこちらにありますよね?」

「はい、シュンさんの契約が優先となります。ギルドの契約は法律と同等の扱いを得ます」

「だ、そうですよ。お三方」

「「「くっ」」」


 三人が冒険者登録をしているか分からないけど、素人でも分かる様に契約関連から話を進めた。

 チーフのお姉さんは僕の言いたい事に気が付いて、話を合わせてくれた。

 周囲の冒険者も僕の言いたい事に気が付いて、同調するような口調で野次を入れてくる。


「そもそもの話ですが、依頼料金を決めるのはあくまでも依頼元であって、値上げしろと言うのはギルドに言っても仕方ないですよね」

「はい、その通りになります。今回の依頼についても、依頼元の花見の運営元よりきっちりと契約書を交わしております」

「「「くそ」」」


 聖職者は吐き捨てる様に言っているけど、こんなの契約の基本でしょうが。

 この聖職者は本当に頭が足りない連中の様だ。

 僕は後ろにいる宿のメンバーに視線を合わせると、直ぐに理解してくれた。


「また、不測の事態に備える為、治癒魔法が使える人を二人ほど追加したいのですが、よろしいでしょうか」

「はい、問題ありません。先方よりも人数が多い分には問題ないと聞いております」


 更に不測の事態に備える事もアピールする。

 これで、教会の出る幕は完全に無くなった。


「くそ、覚えてろ!」

「「覚えてろ!」」


 聖職者らしくない捨て台詞を吐いて、ギルドから逃げていった三人組。

 こういうのは、相手がどうしようも無いことを理解させれば引き下がる。

 それにこの状態で暴れれば、不利になるのは自分たちなのだから。


「よくよく話を聞くと、無理難題を押し付けているだけですね」

「そうなんですよ。しかもギルドマスターがいない時を狙って来るんですよね」

「いない時だけ。ギルドマスターがいない時は、ギルドに周知するのですか?」

「いえ、職員と領主様に......、これ以上は何も言わない様にします」

「僕も依頼を終えたらギルドマスターに会うので、その時に聞いてみます」


 チーフのお姉さんも僕の疑問に気が付いてくれた様だ。

 何故教会の人間がギルドマスターのいない時を知っているのか。

 僕も非常に気になっていた。

 とはいえ、先ずは皆の契約を行わないと。


「すみません、急に契約人数が増えてしまって」

「いえいえ、人数が多くても問題ないと言われていますし、回復魔法が使える人が増える事はとても良いことです」


 という事で、僕達三人を含めて十人で契約をする事に。

 Eランク以上の依頼だけど内容が特殊なだけに依頼料金が高めに設定されていて、皆も喜ぶ依頼となった。


「救護班と言いつつも力仕事もありますので、他の方の仕事も多いかと」

「それこそ俺らの出番だな」

「身体強化魔法の訓練にもなるぞ」


 という事で全員納得の元、僕達は早速花見会場に向かう事になった。

 この依頼が無事に終わってくれればと、そう思わざるを得なかった。

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