散歩の七十四話 皆で朝の訓練

 次の日の朝、宿の裏庭を借りていつもの朝の訓練をしていると女性の冒険者のグループがやってきた。

 この人達も朝の訓練をする様だ。


「おはようございます」

「ああ、おはよう。ゆっくりと眠れたかい?」

「ばっちり! 何処でも眠れるよ!」

「ははは、そりゃいい事だ」


 僕達は幸いな事に、どこでも寝る事ができる。

 その為に、寝不足って事はこの世界に入ってないなあ。

 因みにお姉さんは三人組で、剣士とシーフと魔法使い。

 うーん、三人ともスタイル抜群でスーとシロが羨ましそうに三人のとある部分を見つめていた。

 君達はもう少し成長しないと。

 せっかくなので、僕達と一緒にお姉さん達も訓練する事になった。

 先ずは魔力の循環をする為の瞑想を始める。

 

「うーん、こうかな?」

「魔法が使えなくても、集中力が増しそうだよ」

「効率の良い訓練だね。これは毎日続けよう」


 特に魔法使いの人はこの訓練を気に入ったらしく、これからも続ける様にする様だ。

 しかし、僕は別の事に気づいた。


「剣士のお姉さん、もしかして魔力があるのでは?」

「回復魔法の才能がありそうですよ」

「お、本当か?」

「凄い凄い! 治癒剣士だ!」


 剣士のお姉さんは魔法の訓練を受けた事がなかったから、自身に魔力があると気が付かなかった様だ。

 間違いなく魔力があるので、お姉さんも嬉しそうにしていた。


「パーティに一人でも治癒師がいるのは良いな」

「私は攻撃魔法特化だから、回復役がいると凄い助かるよ」

「はは、あたしも驚いているよ。暫くは魔法の訓練もやらないとな」


 三人組のお姉さんも訓練に手応えを感じていた。

 そうしたら僕達の様子に気がついたのか、他の人達もやってきた。


「面白い事をやっているな」

「何をやっていたんだ?」

「ふふふ、あの子らと一緒に訓練したら、あたしに回復魔法の適性があるのが分かったんだ」

「「「なにー!」」」


 遅れてきた男性陣は、驚愕の事実にかなりびっくりしている。

 折角なので、皆で魔力を探ってみた。

 すると、新たな才能を持つ者が現れた。


「うお。俺、身体強化を使えるのか!」

「風魔法が使える。獣人なのに攻撃魔法が使えるぞ!」


 おっさんに身体強化の才能があり、狐獣人の若者に風魔法の適性があった。

 特に獣人である狐獣人は、獣人の自分に魔力があった事にかなり驚いていた。

 数人程魔力があるだけで十分な成果なのだが、とんでもない才能を持っている人が一人現れた。


「すげー、毛並みが黄金に光っている」

「とんでもない魔力量だぞ!」


 そう、筋肉ムキムキのゴリラ獣人の若者に聖魔法の適性があったのだ。

 しかも圧倒的な魔力を持っていて、黒い毛並みが黄金に光っている。


「凄い凄い! スーパーゴリラーマンだ!」

 

 シロとアオは、ゴリラ獣人の若者にはしゃいで喜んでいるけど、鍛えればとんでもない逸材になるぞ。

 これにはゴリラ獣人自身も驚いている。


「凄い、自分の体ではない位だ」


 元々ゴリラ獣人は格闘家なのかパンチと蹴りを繰り出している。

 うん、とんでもないスピードだ。

 聖魔法を体に循環させる事ができるようで、身体強化の様な効果もあった。


「治癒魔法を使う事でも、魔力制御は上がります。暫くは体を動かすのにも慣れる必要がありますね」

「うむ、にいちゃんの言いたい事が良く分かった。格闘技と一緒で訓練が必要だ」


 ゴリラ獣人は、きちんとした格闘家の心構えを持っていた。

 急に強力な力を得て気が大きくなるかと思ったけど、そんな事はなかった。


「じゃあ、シロと組手やらない?」

「ゴブリンジェネラルを倒した力とはどんな物か、試してみよう」


 という事で、シロと全身が黄金に輝くゴリラ獣人の組手となった。

 傍目からみれば、どう考えてもゴリラ獣人の圧勝に見える。


「とー!」

「ぐほっ」

「「「え?」」」


 しかし勝負は非情で、一瞬にして決着が着いた。

 流石に聖魔法を覚えたばっかりではシロには歯が立たないようで、パンチを腹部に受けて動けなくなった。

 聖魔法のお陰で防御力が上がっているのか、ダメージはあるが動けている。

 他の人は、シロの動きを目で追えなかった様だ。


「大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ。己の未熟さが良く分かった。修業して再戦したい」

「いつでも大丈夫だよ!」


 ゴリラ獣人は自分自身に聖魔法をかけて治療していたが、シロに全く歯が立たないのが悔しかったのだろう。

 それでも再戦を誓っているあたり、いい根性をしている。

 二人は固い握手をしていた。


「あんちゃん、猫耳の嬢ちゃんと組手をやっていると聞いたけど、このレベルかい?」

「このくらいですよ。スーは見ての通り控え目にやっていますけど」

「いや、十分に速い。流石はゴブリンハンターになるだけある」


 スーはアオの攻撃を避けているけど、流石にアオもシロより速くもない。

 しかし、他の人が見ればかなりの速さらしい。


「速さには慣れていきますよ。それこそ、身体強化の出来る人の相手から始めると良いかと思います」

「それなら俺らも大丈夫だ。よし、今日は時間がないけど明日からやってみるか!」


 今日はもう時間がなくてギルドに行かないといけないけど、明日からの訓練から皆の参加が決定した。

 南の辺境伯領で宿のメンバーと訓練を始めた時に状況が似ていて、何だか嬉しいなと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る