散歩の六十六話 怪しい同乗者

「ここから、別の領地に入るんだよ」

「おお、遂にやってきた!」


 南の辺境伯領の街を出発して四日目。

 遂に新しい領地に入っていく。

 因みに国境からは新たな馬車に乗り換えて、中間点にある子爵領まで二日間はこの馬車で向うことになる。


 南の辺境伯領の旅は、本当に平和だった。

 天候にも恵まれて良い天気だったし、何よりも魔物の襲撃が一切なかった。

 なので、道中はシロとアオが僕とスーの膝枕でグースカ寝ていた程だった。

 宿も良い所だったし、ちゃんと男女別に部屋もとれた。

 シロは、その日の気分で僕かスーの所で寝ていた。

 たまに訪れた村で治療を頼まれた事はあったけど、そのくらいは何ともない。

 辺境伯の統治が行き届いている証拠だ。


「子爵領までは森もあるらしいから、十分に気をつけようね」

「はーい」


 だが、これからはのんびりとした旅にはならない。

 それは同乗していた乗客からも注意を受けていた。

 辺境伯領では国境の警備もあるので、定期的に街道を巡回して危険な動物や魔物を討伐しているという。

 しかし、これから向かう街道は子爵領はともかくとして小領地が多い。

 となると、兵も小規模だし冒険者に危険な動物や魔物の討伐を依頼する予算も限られる。

 街道で何かが起きる可能性が高まるというわけだ。


「冒険者が護衛として同行する事もあるらしいが、今回は僕達がいるからね」

「何かあっても、シロが倒しちゃうよ!」

「シロちゃんは、本当に元気ね」


 僕達はワイワイと話をしているが、同乗者は僕達の事を懐疑的にみている。

 そりゃ、全員未成年のパーティだからね。

 因みに同乗者はおじさん二人におばさんが二人。

 極悪人ではないけど何だか悪い感じがして、シロも積極的には話をしていない。

 でも、わざわざ馬車を変えるのも面倒くさいので、そのまま出発する事に。


 コロコロコロ。


 暫く馬車で街道を進むと、草原から森に入っていく。

 道は整備されているけど、両サイドは鬱蒼とした木々が広がっている。

 天気も曇り空なので、少し肌寒いなあ。

 そんな事を思っていたら、探索に何かが引っかかった。


 ガサゴソガサゴソ。


「あ、何かやってくるね」


 シロもアオも反応したので、直ぐに戦闘態勢をとる。


「グルルルル……」


 茂みから現れたのは、オオカミの集団。

 十頭程が、唸りながらこちらを睨んでいる。


「うわあ、こんなにいるとは!」

「もうお終いだ……」


 乗客は予想以上のオオカミの数に驚いている。

 僕達にはオオカミを倒せないと思っているのか、この世の終わりの様な表情をしている。


「「えい!」」

「ギャン!」


 先ずは僕とスーで魔法を放って、オオカミの数を減らす。

 勿論、素材が悪くならない様に頭を狙うのを忘れない。


「とー!」

「キャンキャン!」


 撃ち漏らしたオオカミ目掛けて、シロとアオが一気に接近して蹴散らす。

 あっという間に、オオカミは全頭倒し切った。

 早速アオがオオカミの血抜きを始めている。


「もう周囲にはオオカミはいませんね」

「へっ?」


 再度探索を使って周囲を調べるが、敵っぽい反応はなかった。

 乗客は戦闘があっという間に終わった事に、まだ理解が追いついていない様だ。


「シュンお兄ちゃん、オオカミを回収したよ」

「よしよし、ご苦労様」

「生活魔法で体を綺麗にしますね」

「わーい、スーお姉ちゃん有難う!」


 そして僕達は、いつも通りにほのぼのとした感じで席に戻った。


「「「「……」」」」


 そして、乗客はとんでもない物を見てしまったと、僕達の事を珍獣を見るような視線で遠巻きに眺めていた。

 失礼な!


「ははは、噂には聞いていたが、嬢ちゃん達は強いなあ」

「シロ達、強い?」

「そうだ、なんと言っても手際が良い。流石はゴブリンハンターだな」

「えへへ」


 御者だけは僕達の事を聞いていたのか、とても冷静だった。

 シロとアオは、御者に褒められてご機嫌だった。


 その後も最初の宿泊地に向かうまでに何回か襲撃があったけど、僕達はあっさりと倒していく。

 そりゃゴブリンジェネラルやあの魔法使いの女性に比べたら、油断しない限り相手にならないからな。

 乗客は僕達に疑念の視線を向けなくなった代わりに、少し怯えた表情をしていた。

 悪態をついたので、何かされるのではと思っているのかも知れないな。

 勿論、何もしないけど、静かにしてくれる分には有難い。

 こうして馬車は、最初の宿泊地に到着したのであった。

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