散歩の六十七話 ちょっとした一悶着

 順調に進んだ事もあって、予定よりも早く今日の宿泊地に到着。

 宿を取る前に、御者さんにとある事を確認する。


「すみません、道中討伐した獲物はどうすれば良いですか?」

「君達が討伐したのだから、君達の物だ。好きにすれば良いよ」

「有難う御座います。では宿を取った後に、ギルドへ売却しにいきます」


 道中討伐した獲物をどうするか聞いていなかったのだが、倒した人に権利があるそうなのでこの後売却する事にした。

 その前に宿を取るのだが、ここで少し問題が発生する。


「すみません、空いている部屋が一部屋しかないんですよ」


 どうも僕達と同じく花見祭りに行く観光客が多いそうで、どこも宿がいっぱいだそうだ。

 お金がない人は、テントエリアで宿泊代を浮かせているという。


「ベッドは二つありますか?」

「はい、御座いますよ」

「なら、その部屋でお願いします」

「じゃあ、シロはシュンお兄ちゃんと一緒に寝る!」


 僕がどうしようかと悩んでいたら、スーとシロがあっという間に手続きを進めてしまった。

 

「スー、僕と一緒の部屋で大丈夫なの?」

「はい、問題ないですよ。こういう場合は仕方ないですから」


 念の為にスーに確認しても、あっさりと問題ないと言われてしまった。

 うーん、僕の事が完全に安全人物だと認識されてしまっている。

 勿論、シロもいるし、変な事はしないですよ。


 その後は道中に倒した獲物を売却しに、この小さな領地の冒険者ギルドへ。

 ここのギルドは色々な施設が併設してあって、コンパクトに纏まっていた。

 ギルドの隣には居酒屋もあって、数人の冒険者が酒盛りをしていた。

 そんな中、僕達はギルドの受付に移動する。

 ここのギルドの受付嬢はおばさんだった。

 

「すみません、ここに来る途中で討伐した獲物を売却したいのですが」

「あら、ちょっと待っていてね。あんた、お客さんだよ」

「おう、ちょっと待ってくれ」


 このギルドは夫婦で経営しているのか、おばさんが後ろの方に声をかけた。

 すると、熊みたいな大きな主人がやってきた。


「わあ、おっきいねえ」

「あ、こらシロ。すみません」

「ははは、昔から言われているから慣れたもんだ。小さい嬢ちゃんと比較すれば、大男だな」


 シロが素直に感想を言ってしまったが、主人は笑いながら流してくれた。

 見た目はゴツいけど、とても良い人の様だ。


「ほお、綺麗に処理されているね。血抜きも完璧だ」

「アオがやってくれたの!」

「成程、スライムがやったのか。それなら、確かに効率が良いな」


 うちの売りはアオが行ってくれる丁寧な血抜きだ。

 その為に、いつも買取価格は上限に近い。

 今回も、良い値段で売買出来た。

 すると、主人が僕達の冒険者カードを見て何か気がついたようだ。


「ほう、ゴブリンハンターか。若いのにたいしたものだな」

「え、わかるんですか?」

「ほれ、カードに小さくゴブリンの絵が描かれているだろう。それが証拠だ」

「あ、シロのカードにも描いてあったよ」


 確かにカードの下の方に、小さくゴブリンのマークが描かれていた。

 スーのカードにも描いてあったぞ。


「元々ハンターの称号を得るのは上位ランクの冒険者ばかりだからな。ゴブリンハンターやオークハンターやゴーストハンターなどが存在するぞ。ゴブリンキングかゴブリンジェネラルを倒したか?」

「あ、はい。ゴブリンジェネラルを倒しました」

「シロが踵落としで倒したんだよ!」

「そうか、それなら間違いないな。冒険者ランクとは別の、冒険者にとっての称号だ。場合によっては上位ランク扱いになって、扱える依頼も増えるぞ」

「そうなんですね。でも私は、後方支援に専念していたのですが」

「称号を得るレベルの相手では、後方支援も重要になる。お前さんは謙遜しているが、胸を張って良い結果だぞ」

「そうだよ。スーお姉ちゃんの回復魔法は凄いんだから!」

「シロちゃん……。そうですね、有難う御座います」


 元々上級者の事だから、初心者講座の話にはなかったんだ。

 それにスーの回復魔法があるから前衛陣も思いっきり動けるのであって、スーの活躍は小さくないよな。

 でも、良い事を教えて貰った。

 こうして無事に買取も終わったので、皆で宿に戻った。


「わあ、皆お酒飲んでいるね」

「大人だからだよ。シロはまだお酒を飲んじゃダメだからね」

「飲まないもん。臭いが苦手なの」


 宿に着くと、宿泊客の多くがお酒を飲みながら食事を楽しんでいた。

 小さな領だから、娯楽が少ないのもありそうだな。

 僕達は全員未成年なので、勿論お酒は頼まない。

 うーん、今日は少し味が濃い目だな。

 シロも美味しいって言わないぞ。

 お酒に合う味付けにしてあるんだ。

 さっさと食べたら部屋に戻ろう。


「なんだあ、ガキとお嬢ちゃんと猫耳のグループかあ?」

「従魔にスライムなんかを連れてやがるぞ」

「どうせ駆け出しの冒険者なのだろう」

「「「がはははは!」」」


 うーん、どうも酔っぱらいの冒険者っぽいおっさんがこちらを指差して笑っている。

 駆け出しなのは間違い無いけど、下品に笑うのはよくないなあ。

 と、思っていたらシロとアオが酔っぱらいに近づいていっている。

 おい、二人とも何をやっているんだよ!


「おじちゃん達、うるさいの!」

「なんだ。ガキよ、やるのか?」

「ははは、威勢のいいガキだな」

「子どもはママのおっぱいでも吸って寝てなさい。ガハハハ!」

「うー、もう怒ったぞ!」

「「「ガハハハ!」」」


 あかん、シロとアオが酔っぱらいに注意している。

 酔っぱらいは、更にシロの事を馬鹿にして大笑いしている。

 どうもあの連中はずっと馬鹿騒ぎをしていて、他のお客様からも迷惑そうな視線を浴びていた。

 あっ、馬車の乗客はヤバいと思っているらしいな。

 こっちを見て顔が青くなっている。


「その辺にしろ。いい加減うるさい」

「「「はっ?」」」

「お前らは一晩外で反省していろ」


 すると、宿の主人と思わしき人が酔っぱらいの背後に立った。

 この主人も、ギルドの人に違わず熊みたいだな。

 そして、馬鹿騒ぎしている酔っぱらいの襟首を持ち上げて、ポーンと店の外に軽々と投げ飛ばした。


「「「えっ?」」」


 ガチャン。


 そして、主人は店の扉を閉めてしまった。

 扉を叩く音がするが、主人はガン無視している。


「嬢ちゃんも、売られた喧嘩は買わないの」

「うー、ごめんなさい」


 シロとアオは素直に店主に謝っていた。

 火に油を注いじゃったからなあ。

 店主はシロとアオの頭を大きな手で撫でてから、店の奥に消えていった。


「シロ、アオ。ああいうのは気をつけないといけないよ。急にナイフとか使ってくる可能性もあるんだから」

「そうよ。黙ってやり過ごす事も必要よ。でも、シロちゃんが怒ってくれて、お姉ちゃん嬉しかったよ」

「うん、ごめんなさい……」


 シロはまだまだ子どもだからなあ。

 僕がしっかりと面倒をみてあげないといけないな。

 その日の夜は、流石に反省してかシロとアオは大人しく寝ていた。

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