散歩の六十五話 のんびりとした旅の始まり

「シュンお兄ちゃん、これからどうやって進むの?」

「南の辺境伯領を三日で抜けて、子爵領と小さな領を四日で通り過ぎる。そうしたら東の辺境伯領に入って、三日で大きな街に着くよ」

「そうなんだ!」


 街の防壁を抜けて、街道を馬車に揺られながらトコトコと進んで行きます。

 ここから十日の馬車の旅路になるので、慌てず馬任せです。


「しかし、俺らも運がいいなあ。まさか、あのゴブリンハンターと一緒になるとはな」

「道中の安全も確保されたという訳だ」

「しかも、ゴブリンハンターの正体がこんな可愛らしい嬢ちゃんとはな」

「えへへ!」


 僕達がゴブリンの群れを倒したのは結構街の中で広がっていて、僕達の事も有名になっていた様だ。

 シロも乗客のおじさんに頭を撫でられていて、アオと共にニコニコ顔でいる。

 まあ、こんな小さい女の子がゴブリンジェネラルに踵落としを決めて倒すなんて思わないよな。


 たまに馬を休ませる為に休憩を取るが、ずっと座ってばっかりなので結構お尻が痛い。


「次の街では、クッションでも買った方が良いですね」

「そうですね。お尻が痛くなっちゃいました」


 シロとアオは全然元気だけど、僕とスーはお尻が痛くなったので、念の為にクッションを買う様にしておこう。

 しかし、のどかな街道だな。

 前に辺境伯様が、定期的に兵に街道付近にいる魔物を狩らせているって言っていたっけ。

 周辺にも普通の動物の気配だけで、危ない気配はない。

 シロとアオなんか、原っぱでゴロゴロとしているよ。

 草木も芽吹いてきたし、春が近いと感じるな。


「うーん、むにゃむにゃ」

「シロちゃん、寝ちゃいましたね」

「安全な所だと思ったのかな」


 そしてシロがいつの間にか原っぱで寝てしまったので、馬車に乗せて寝させる事にした。

 その後も馬車はトコトコと進んで行き、大きなトラブルもなく中継地も兼ねる村に到着。


「良い匂いがするよ!」


 シロは食事の匂いに釣られて目が覚めた様で、急にがばって起きてきた。

 美味しい食事は逃さないって感じだな。


「おばちゃん、ごはん美味しいよ!」

「そうかいそうかい、いっぱい食べな」

「うん!」


 食堂でだされた料理をもりもりと美味しそうに食べるシロとアオのコンビ。

 小さい子が沢山食べるから、周りの人も思わずほっこりとしている。

 スーも食事には満足していて、しっかりと食べていた。

 最初にあった頃は食が細かったけど、今は普通に食べられるようになったな。

 乗客の中にはパンとかを持ってきている人もいて、それぞれのスタイルで昼食をとっていた。


「すみません、ここに優秀な冒険者がいると聞いたのですが」


 昼食も食べ終わり出発まで時間があるので乗客の人と談笑していたら、食堂に一人の女性が駆け込んできた。

 食堂にいた人は優秀な冒険者って言われて、一斉に僕達を指差している。

 僕達の事はさておき、この女性はとっても焦っているみたいだが何かあったのかな?


「どうかされましたか?」

「娘が、娘がずっと高熱をだして寝込んでいるんです。どうか診て頂けませんか?」

「まあ、それは大変です。シュンさん、直ぐに行きましょう」

「そうだよシュンお兄ちゃん。診てあげないと」

「そうだね。すみません、娘さんの所に案内して貰えませんか?」

「ありがとうございます。こちらです」


 どうも馬車の中に優秀な冒険者がいると聞いて、藁をもすがる思いだったのだろう。

 女性に案内されて着いた家の中には、ベッドで苦しそうにして寝ている小さい女の子がいた。


「ちょっと失礼します」


 女の子に軽く魔力を流しながら容態を確認すると、どうも肺炎みたいで肺に大きな淀みがあった。

 でも、かなりの重症で僕には治せそうにないので、スーにバトンタッチをした。


「まあ、凄い魔力の光です!」

「ふう、シュンさん。これでどうでしょうか?」


 スーも全力で女の子の治療を行っていた。

 聖魔法で女の子が光るのを見て、母親はかなり驚いている。

 スーからバトンタッチした僕は、もう一回女の子を診てみた。

 肺の状態は良くなった様だが、お腹とかに若干淀みがみられた。

 僕は回復魔力をかけつつ、女の子の容態を確認していく。


「ふう、できる限りの治療を行いました。肺炎だけでなくお腹にも淀みがみられましたが、今は大丈夫です。ただ、体力が落ちているので暫くは安静にしてください」

「ありがとうございます、本当にありがとうございます」


 女の子の顔色も良くなり、寝息も穏やかになった。

 女の子のお母さんは、涙ながらにお礼を言ってきた。

 実際に、結構危ない状態だったからなあ。


「おお、帰ってきたぞ」

「早かったなあ。どうだった?」

「結構危なかったでしたが、何とか治療できました」

「そりゃ良かった。そこの嬢ちゃんも優秀な後衛だと聞いたし、その子どもも運が良かったな」

「そうですね。僕でも治せないと思ったので、スーが居てくれて本当に良かったです」

 

 たまたま僕達がいてスーがいたという偶然だったけど、その女の子が強運だったのかもしれない。

 スーは皆から褒められて顔が赤くなっていたけど、今日の立役者には違いない。

 こうして、のんびりとした馬車の旅が再開する事になった。

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