散歩の四十三話 謎の女性

 そして、僕達の冒険者ランクが上がって二日後。

 皆で依頼を受けようとギルドに来たときに、それは突然やってきた。


 ざわざわ、ざわざわ


「おい、二人が姿を見せたぞ」

「よく、ギルドに顔を出せたな」

「今度は保護者付きか?」


 ギルド内が一斉にざわめいている。

 あの二人が姿をあらわしたからだ。

 そして、女性を一人連れている。

 僕としては、あの二人よりも一緒にいる女性が気になった。

 赤いウェーブのかかった長い髪で、スタイルは抜群。

 少し露出の多い魔法使いの服を着ている。

 何だろう、あのお姉さんから怪しい感じがするぞ。


 二人と女性は周りからの視線を浴びながら、受付に向かっていく。

 よりによって、二人が胸ぐらを掴んだお姉さんの所に行っている。

 その光景を見た周囲の人の緊張が更に高まっていく。


「はい、再発行の手続きですね。こちらに必要事項を記載して下さい」


 事前に受付のお姉さん達には、あの二人が来るかもしれないという事が周知されていたのだろう。

 対応したお姉さんも、極めて事務的に二人に対応している。

 勿論にっこりとしている事を忘れない辺り、プロ根性を感じるぞ。

 二人は、若干不貞腐れた態度をとりながら書類を書いていく。

 二人の後ろに立っている女性は、鋭い視線を向けながら二人の事を見ていた。


「はい、問題はありません。では、再発行に二人合わせて一万ゴールドになります」


 新人講座の時も聞いたけど、再発行にはお金がかかる。

 でも、思ったよりも安いなあと感じていた。

 そう思っていたら、早速事件が起きた。


「「は?」」


 おいおい、二人ともそんな事は聞いていないぞといった感じの表情をしている。

 受付のお姉さんの事に対して、ふざけるなって表情と言葉を出しているぞ。

 いきなり一触即発かと思ったら、ここで二人を止める人物が現れた。


 ばちーん、ばちーん。


「おお、思いっきりやったね」


 思わずシロもびっくりする程だった。

 二人の後ろにいた女性が、二人を振り向かせると問答無用で平手打ちをしたのだ。

 流石に受付のお姉さんもびっくりする程、大きい音がギルド内に響きわたった。

 ぶっ叩かれた二人の頬が真っ赤になっているけど、なぜか二人は文句を言わない。

 それどころか、女性に対して怯えている様子もあるぞ。


「失礼しました」


 二人をぶっ叩いた女性は受付のお姉さんに謝ると、二人の後ろで物凄いプレッシャーを放ち始めた。

 二人も流石にやばいと思ったのか、直ぐに再発行料金を支払った。

 

「はい、これで手続きは完了です。お疲れ様でした」

「有難うございます。さあ、行きますよ」


 受付の女性がにこやかに再発行した冒険者カードを二人に渡すと、女性が返事をして三人はそそくさとギルドを後にした。

 ギルドの出入り口から三人が出て行った瞬間、周りの人の緊張がどっと解かれていった。


「何なんだよ、あのねーちゃんは」

「女王様系だな、あの二人の事をぶっ叩くとは」

「綺麗だけど、付き合うのは勘弁だな」

「踏まれたい……」


 若干おかしいセリフを言っている人もいるけど、総じてあの女性は要注意だというのが冒険者達の認識になった。


「あの女の人、ちょっと嫌な感じがしたよ」

「私もです。少し普通ではないと感じました」

「お前らじゃなくてもわかるぞ。ありゃ危ないな」


 勿論僕達も、あの二人以上に女性の事を警戒していた。

 シロとアオがかなり警戒しているのが証拠だろう。

 僕は、思っていた以上に一波乱ありそうな気がしてならなかった。

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