散歩の三十二話 初めての馬車

 追加の倉庫整理も終わり、ギルドでの手続きを終えて宿に向かう。

 僕達の倉庫整理の評判が良いみたいで、今度はとある商店の棚卸しの指名が入った様だ。


「たまにあるのよ。仕事を丁寧にやるので、うちもやって欲しいという依頼がね。そういう人は、ベテランも新人も関係ないわ」

「そう言って貰えると、とても有り難いです」

「そういう冒険者はギルドからの信用も上がるし、ランクも上がりやすいわ」

「おー、そうなんだ!」


 どんな仕事でも信用は大切だ。

 宿の店主も同じ事を何回も僕達に言っている。

 僕達は、そのハードルを少しずつクリアしてきている様だ。

 そりゃ、あの大暴れした二人に仕事は頼みたくないだろうな。


 ギルドから直ぐに宿に着くので、カウンターにいたおかみさんに事情を話した。

 

「こちらは心配しないでいいわよ。気をつけて行ってらっしゃい」


 おかみさんはスーの事情も知っているので、あっさりと話が分かってくれた。

 このタイミングで、宿の前に馬車が着いた様だ。

 

「皆様、お待たせ致しました」

「こちらも何時でも大丈夫です」

「では、早速参りましょうか」


 家宰さんが手配してくれた御者の人が声をかけてくれた。

 表にでると立派な馬車がドーンと待っていて、更には侍従まで待機していた。

 

「はは、これは俺等は行かなくて正解だな」

「緊張して会話もできないだろうな」


 一緒に表に出た面々は、豪華な馬車に完全に気後れしていた。

 あの、僕だってこんな豪華な馬車は想定外だったのですが。

 

「さあ、皆様馬車の中にどうぞ」

「わーい」


 そして、侍従に促されてシロはアオと共に真っ先に馬車に乗り込んだ。

 緊張しない性格って羨ましいな。

 僕とスーも、シロの後に続いて馬車の中に入った。

 馬車の中も豪華な内装で、シートがふかふかだよ。

 思わず座るのも慎重になる。


「では、出発します」

「はーい」


 御者の合図で馬車が動き出した。

 窓から見える外の光景に、シロとアオは大興奮。

 窓にかぶりついて外を眺めていた。

 二人の様子に、侍従もニコニコとしている。

 そんな中、馬車は街の中心部に向けてトコトコと進んでいく。

 段々と高級住宅街に入っていき、そしてとても大きな屋敷の前に到着。


「うわあ、大きいね!」

「本当だね」


 大きさもさることながら、庭もとても広い。

 流石のシロも、屋敷の凄さに圧倒されている。

 玄関の所に馬車が横付けされると、屋敷の侍従が出迎えてくれた。

 そして、直ぐに応接室に通された。


「何だか想像以上に凄い事になっているぞ」

「すみません、私の事で大変な目にあわれて」

「いやいや、それは大丈夫ですよ」


 緊張している僕を見て、スーは申し訳無さそうに言っている。

 大丈夫と言ったが、正直大丈夫ではないぞ。


「シュンお兄ちゃん、このお菓子美味しいよ!」


 この時ばかりは、平然と出されたお菓子を食べているシロとアオの事が羨ましいと心から思った。

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