散歩の二十三話 二人を拘束

 皆でギルドに着くと、またもやあの光景が繰り広げられていた。


「なんで、この依頼が受けられないんだよ」

「この私に相応しい依頼ですわ」

「単純にランクが足りません」


 あの派手な服を着た二人が、また受付で大騒ぎしている。

 討伐系の依頼を持ってきているらしいが、冒険者ランクが足りないという根本的な理由で受付のお姉さんから拒否されていた。

 受付のお姉さんの顔は笑顔だけど、般若のオーラが背中から出ているぞ。

 それよりも気になったのは、あの治癒師の女性だ。

 何だか元気がなく、二人を止めようともしていない。

 あの二人との間で、何かあったんだな。


「はい、講習受付の手続きが終わりました」

「あ、有難うございます」

「この間の新人講習を行った部屋で座学をおこないますので、呼ばれましたら移動してくださいね」

「分かりました」


 揉めている二人を見ていると、受付のお姉さんから薬草採取の講座が受付完了したと言われて慌てて視線を戻した。

 その横では、このギルドの最高権力者が仁王立ちしていた。


「シュン。あの二人が気になるのは分かるけど、今は目の前の講座に集中しましょうね」

「ギルドマスター……」


 受付に騒ぎを聞きつけて、ギルドマスターが顔を出した。

 僕の事も気にしつつ、ギルドマスターは視線を騒ぎを起こしている受付に向けている。


「あの治癒師の事が気になっていると思うけど、もう少ししたら手が打てるから。だから大丈夫よ」

「既に違反行為ばっかりしていますからね」

「あそこまでギルド内の治安を乱されると、ギルドだけでなく辺境伯領にとっても良くない事だわ」


 ギルドマスターのいう事は最もだ。

 騒ぎを起こしてギルドに来る人が少なくなれば、ギルドの収入も悪くなり辺境伯領に納める税金も少なくなる。

 更に治安が悪いと悪評も立つだろうな。


「さて、そろそろお話しないといけませんね」

「受付のお姉さんの胸ぐらを掴みそうですね。あ、やっちゃった」

「はあ、現行犯ですか。ふふふ、しつけのしがいがありそうだわ。あの治癒師は、皆と一緒に薬草採取の講習を受けてもらいましょう」


 冗談で二人が受付のお姉さんの胸ぐらを掴むと言ったら、本当に剣士が胸ぐらを掴んでいった。

 魔法使いの方は、机をバンバンと叩いて足で蹴っ飛ばしているぞ。

 治癒師の方は、目が死んでいる状態で二人を止めている。

 精神的に疲れてしまったのだろう。


「二人とも、いい加減にしなさい」

「「えっ?」」

「おお、凄く速かったよ!」


 シロもアオもびっくりする速度で、ギルドマスターは二人の背後に移動してきた。

 

「ここ数日、宿で大騒ぎをしていたのを把握しているわ。宿からギルドへ苦情がきたのよ。それにこの治癒師への扱いもね」

「なっ」

「どこでそんな情報を」


 あらら、既にこの二人は宿でやらかしていたのかよ。

 酒に酔って暴れもしたかな。

 それに、治癒師に対して何をしたかも気になる。


「二人にはギルド職員への暴行により、ギルド規則に従い沙汰が下るまでギルド活動の禁止を言い渡します」

「ふざけるな、俺は貴族の子息だぞ」

「私もそうよ。そんなの通じないわよ」


 二人ともアホだな。

 ギルド活動なのに、なんで貴族の立場を出してくるんだ。

 僕だけでなく、受付のお姉さんやギルド内全ての冒険者がシラケた目で二人を見ている。


「この治癒師はギルドで保護ます」

「こいつはもう用無しだから、いらねえよ」

「口うるさいし、金ももうないからお払い箱よ」

「びく」


 何というセリフだろうか。

 自分達に注意するし、もしかしたらお金を奪われたのかもしれないぞ。

 僕は、思わず二人に対して憤慨してしまった。

 二人はガチムチ職員によって、ギルドのとある部屋に連行された。

 そしてギルドマスターが、こちらに治癒師を連れてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る