散歩の十六話 緊張状態の座学

 えっと、これはどういう状況なのだろうか。

 講座は午前中で終わる予定で、前半が座学で後半が実地訓練。

 なので、机の並んでいる個室に初心者が集まっている。


「「……」」


 何で僕の両サイドに、あの派手な服の剣士と魔法使いが座っているのだろうか。

 目の前は教壇で、さっきのガチムチの職員がにらみを効かせている。

 教室の隅にも、ガチムチの職員が二人立っていた。

 因みにシロとアオは僕の後ろの席で、ペコペコ謝っていた女性の隣だ。

 うん、部屋の中はとても殺伐とした雰囲気だ。

 誰も、無駄な話をしていない。

 あの騒いでいたパーティメンバー以外は、どうしてこうなったのかとテンションが下がっていた。


「さて、今日は生きのいいのもいるから、張り切ってやろうじゃないか」


 目の前の教壇に立っているガチムチの職員は、というかこの部屋にいる職員は全員スキンヘッドにサングラスをかけている。

 更にぴちぴちで張り裂けそうなスーツを着ているので、とっても怖い。

 思わず、冒険者ギルドの職員ではなくてマフィアじゃないかと錯覚しそうになった。


「それでは座学を開始する。実技の時間を取りたいので、さっさと進めるぞ」


 サングラス越しの視線が、ギロリと僕の両サイドを睨んでいる。

 なのに、二人の態度は超悪い。

 嗚呼、なんで俺がこの二人の間になったのだろうか。


「それでは冒険者登録をした時に配られた冊子を出すように」


 皆が机の上に冊子を出していく。

 おや、両サイドの二人は机の上に冊子を出していない。

 それなのに、不貞腐れた態度をしているぞ。


「おい、お前ら何故冊子を持っていないんだ。配られたのは昨日だぞ」

「捨てた」

「はっ?」

「だから捨てたんだよ。パーティで一冊あれば十分だろ?」


 シーン。


 最初からいきなり二人がやってくれた。

 先生役のガチムチ職員のこめかみがピクピクとなっていて、今にも血管が切れそうだ。

 勿論、他の人は静まり返っている。

 と、ここでおもむろに隅にいた職員が僕の両サイドにいる二人の机の上にあえて丁寧に冊子を置いていった。

 ニコリと微笑む事も忘れない。

 両サイドの二人は顔は威勢を保っているけど、足が震えてるぞ。

 因みに冊子は小さな文庫本のサイズなので、携帯できるようになっている。

 

「この冊子は、必ず携帯する様に。誰かに預ける事もしてはならないぞ」


 この話は受付のお姉さんからも聞いている。

 冒険者としての心得なのに、どうして捨てる事ができるのだろうか。


「冒険者は荒くれ者の集まりだと思われているが、信用がないと仕事はできない。余りにも依頼の失敗が多かったり信用を無くす行為があると、冒険者ライセンスを剥奪することになる」


 この辺はどの職業でも同じだろう。

 信用できない人に仕事を任せる事はできない。


「そのため冒険者はランクを設けて受けられる依頼に制限をかけている。実力がないのに、一攫千金を狙うのがいるからな。SからFランクまでランクがあるが、先ずはDランクを目指す様に」


 またもやギルドの職員は僕の両サイドをギロリと睨んでいる。

 あの、牽制の意味もありますけど僕も威圧を受けているのですが。

 それと、宿の店主が言っていたツーランク上がれば初心者卒業っていうのはこういう事なのか。


「勿論、他の冒険者が得た成果を奪い取るのはご法度だ。そんなの、ただの強盗のやる事だ。勿論、故意に冒険者を傷つけるのもだ。それが例え仲間内であってもだ」


 またもやギロリとギルドの職員が僕の両サイドを睨んでいる。

 特に故意に傷つける所だ。

 僕ももう一人の女性が酷い目にあわないか、とても心配だ。


「依頼を受けるにあたっては、事前に色々とリサーチする事が大切だ。薬草採取とて、事前の調査がとても重要となる」


 これは冒険者に限らず重要な事だ。

 後で受付のお姉さんに、薬草採取とかの情報を聞いてみよう。

 その後の説明も、冒険者としてではなく人として当たり前の事ばかりだった。

 うーん、僕の両サイドの人は当たり前の事を理解できるのかな……

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