散歩の四話 天界での目覚め その三

「うーん、むにゃむにゃ。あれ? ここはどこ?」


 猫耳少女が目を擦りながら辺りをキョロキョロと見回している。

 どうやら目を覚ました様で、自身の手をまじまじと見ていた。

 同じ様にスライムも目を覚まして、辺りを見回している。


「あれー? おててが人間になっちゃった!」


 この猫耳少女は、バスに乗る時に抱いたあの白猫で間違いない様だ。

 スライムも猫耳少女と同じ様に、触手をふりふりとしている。


「ふふふ、二人とも目が覚めた様ですね。お二人も異世界に行って頂きたいので、獣人とスライムの形になって頂きました。スライムはシュンさんのバックについていたキーホルダーですよ」

「おお、そうなんだ。猫獣人になったんだね」


 うーん、何というか猫耳少女はあっさりと現実を受け入れてしまった。

 にぎにぎと手を動かしているが、未だに俺の膝の上に座っている。

 そんな中、猫耳少女は俺の事を見上げてじっと見つめていた。


「うーんとね。お兄ちゃんはだあれ?」

「俺? 俺はシュンだよ」

「シュンお兄ちゃんなんだね。えっと、私の名前はなあに?」


 猫耳少女は俺の事を見上げたまま、自身の名前を聞いてきた。

 よく見ると、猫耳少女の腕の中にいるスライムも俺の事を見ている。


 じー。


 二つの視線に耐えかねて、目の前の女性に二人の名前を尋ねてみた。


「すみません、この二人は何という名前ですか?」

「二人はシュンさんの眷属みたいな者です。シュンさんが名前をつけてあげてくだい」


 おお、ニコッとしながらも俺が二人の名前をつけろと断言されてしまった。

 下からの熱い視線も未だに続いているし、相当期待されている。


「えーっと、元々白猫だったからシロでどうかな? スライムは、綺麗な青色だからアオかな?」

「うん、私の名前はシロなんだね。有難う、シュンお兄ちゃん!」


 おお、猫耳少女が名前を付けてもらってとても嬉しいのか、俺の首に抱きついてきた。

 スライムも猫耳少女の頭の上に乗って一緒に抱きついてきた。

 安易な名前かと心配したけど、二人とも喜んで貰って何よりだ。


「さて、そろそろシュンさんの事について説明をしましょう。シュンさんは元の年齢の半分の姿になっています。顔形も現地の姿に似せてあります」

「おお、幼くなっている。そして、何故か美形になっているぞ」


 女性が鏡みたいな物を出して俺の姿をうつしている。

 少し西洋人っぽい顔つきになっていて、ちょっと不思議な感じだ。

 シロとアオも、鏡にうつった自分の姿に興味津々だ。


「シュンさんは十四歳になっていますので、口調も年齢に併せて貰えればと」

「えーっと、俺じゃなくて僕の方が良いですか?」

「そうですね。そちらの方が宜しいかと」


 女性に言われて何だかすっと納得できた。

 これからは俺じゃなく僕と呼ぶようにしよう。

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