散歩の二話 天界での目覚め その一
「貴方は前世の輪廻から外れてしまいました」
「はっ?」
えーっと、状況を確認しよう。
目が覚めたら目の前に女神様みたいな人がいて、どうも俺の事を喋っている様だ。
周りは真っ白で、空間の感覚がない。
そして、輪廻から外れたってどういう事?
更に言うと、何故か俺の腕の中には猫耳の少女とスライムがいる。
今、俺が置かれている状況が全く分からないぞ。
思い出せ、俺に何があったのかを。
えーっと、確か俺はしがないブラック企業のサラリーマン。
両親は子どもの頃に死別し、祖父母に育てられた。
そして、祖父母も大往生したんだっけ。
それで借家だった実家を離れて一人暮らしを始めて会社員になったけど、勤め先がブラック企業で仕事に追われて気がつけば三十路前。
昨日も残業で終電逃してとぼとぼとタクシーを探しながら、寒空の中歩いていたんだっけ。
それで、バス停付近にニャーニャー鳴いている白い子猫がいて、お前も一人かと声をかけたら急にバスが停まったんだよな。
何故か猫も抱いたままバスに乗って、バスの中が暖かいからいつの間にか寝てしまって。
それから一体どうなった?
「アイカワシュンさん。貴方は偶然現れた天界行きのバスに乗り込んだのです」
「えっ、天界行きのバス?」
「はい、普通の人には見る事が出来ないバスです」
えーっと、なんだって?
天界行きのバスってどういう事だ?
「実は死期が近い人は、色々な形式はありますが稀に天界行きの乗り物を見る事があります。貴方は、働きすぎの上寒空を長時間歩いた事により心筋梗塞を起こしていたのです」
「つまり、俺は死ぬ寸前だったというわけか?」
「はい。抱いていた子猫も、寒さと飢えで死ぬ寸前でした。そして、貴方とその子猫の魂は天界へと運ばれたのです」
うん、こうキチンと整理して言われると何だか納得できる。
無理に休みを取って受けた健康診断も結果が最悪だった。
その状態で更に無理をすれば、死ぬのも納得だ。
「肉体は既に死んでおります。キチンとした手続きが取られていますのでご安心を」
「そうか、それは良かった。そういえば、俺がいた会社はどうなった?」
「貴方が死んだ事により、今更ながらですが調査が入るそうです」
「そうか、それは良かった。俺の死が無駄死になる事だけは避けたかったんだ」
目の前の女性に色々教えて貰って、少しずつ落ち着いてきた。
もしかしたら俺を落ち着かせる為に嘘を言っているのかもしれないけど、俺はそれでも良いかなと思った。
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